最新記事

インタビュー

個人の身の丈に合った「ナリワイ」で仕事と生活を充実させる

2016年4月21日(木)06時12分
WORKSIGHT

wsNariwai-4.jpg

遊撃農家で梅の収穫・箱詰め・発送を行う伊藤氏。

 僕の役目は素人が作業に参加する中でも一定の質を確保することです。たまにめっちゃ不器用な人が来て指導に気を遣うこともありますけど、安く上がる分、必ずしも完璧にはいかない可能性があることを事前に施主に説明しておくことが重要です。施主も参加者も満足度は高いですね。

 素人に大工仕事を実地で教えるという職能はありそうでなかった。一般の人が分かる言葉で特定の技能を教えることが仕事になるということが分かった案件です。

未知の世界を知るきっかけを提供。ナリワイに共通する教育事業の要素

「ナリワイ遊撃農家」は季節限定の農業と販売を行うものです。和歌山県日高川町の農家で、繁忙期に助っ人としてミカンや梅の収穫を手伝いつつ、採れたものを箱詰めしてネットで販売します。

 農作物は普通に流通に乗せると、農家に入るのは末端価格の2、3割です。これでは中小規模の農家では厳しい。打開策として思いつくのがネット直販なんですが、収穫しながら情報をネットに流して、なおかつデータ管理や箱詰め、発送をするのは無理があります。梅の収穫なんて本当に忙しくて、毎日1トンくらいの梅が容赦なく落ちてきますからね。

 そこで収穫を手伝いながらSNSで実況中継レポートをして、売る先を見つける僕みたいな役割の人がいると面白い。収益は農家と僕で折半していますが、農家は作業の負荷を低減できる、無駄のない販売ができる、専業の従業員を雇うわけではないので固定の人件費も発生しないといったメリットを得られます。

 まだ大量には売れませんけど、それでも例えばミカンは100箱売れています。徐々に増えていけば5年後くらいはまあまあいい線行くんじゃないかな。ナリワイはどれもそうですけど、成長スピードは遅いです。「ぼちぼち稼ぐ」ということも心得の1つといえるでしょう。

全体的に相乗効果が出るように事業を組み立てる

 武者修行ツアー、土窯パン屋のワークショップ、床張り、遊撃農家といった一連のナリワイに共通していることは、ユーザーが未知の世界を知る、学ぶ、そのきっかけを提供しているということです。つまり、どれも教育事業の要素があるわけですね。

 今やインターネット経由でどんな情報も気軽に手に入るように思いがちですけど、ある地域では当たり前のことも他の地域に住んでいる人にとっては驚くことだったりする。その落差が価値となって、立派なナリワイのタネになり得るわけです。

 例えばミカンは消毒を減らすと表皮に斑点が出ます。味には全く影響ないけれども、スーパーでは売れません。ちょっと汚れているけれども低農薬のミカンと、見た目はきれいでも農薬をばっちり使ったミカンと、どっちがいいですかという話になるんです。また、完熟してから収穫すると味も色も濃いミカンになるけれども、昨今は青いうちに摘んで保管・流通の過程で追熟させるのが主流です。

 僕ら消費者って、そういうことを案外知らないんですよね。ミカンにはどんなタイプがあるか、その中から何を選ぶかといった情報をちゃんと整理してお伝えするのが僕の仕事です。これは実質的に教育に近いと思っていますが、自分のナリワイを俯瞰すると全てにおいてそういう要素が入っていることに気づきます。

wsNariwai-6.jpg

伊藤氏らが扱うミカン。表皮に多少の汚れがあるものの、味や香りは濃厚でおいしい。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米雇用統計、4月予想上回る17.7万人増 失業率4

ワールド

ドイツ情報機関、極右政党AfDを「過激派」に指定

ビジネス

ユーロ圏CPI、4月はサービス上昇でコア加速 6月

ワールド

ガザ支援の民間船舶に無人機攻撃、NGOはイスラエル
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 7
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 8
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 9
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中