最新記事

北朝鮮

ウェイトレスに軍大佐、次の「脱北」は裕福なハッカーか

2016年4月12日(火)18時50分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

 では、北朝鮮のサイバー戦士たちは、どこを拠点にしているのだろうか。彼らは大学卒業後、諜報機関「偵察総局」傘下の電子偵察局に配属され、中国、マレーシア、インドネシアなど海外のIT企業に派遣される。そして、普段はIT技術者として働きながら、ひとたび偵察総局から指示が下れば、韓国などの対立国家にサイバー戦を仕掛ける。

 驚くべきは、彼らのなかには、月に5000ドルを稼ぐ高給取りもいるという。そのうち2000ドルを国に上納し、残りの3000ドルが取り分だ。北朝鮮の国営企業で働く一般労働者の平均月給は1ドルだ。つまり、1ヶ月で平均月給の250年分を稼ぐ計算になる。これを資金として、平壌のマンション建設に10万ドルを投資するサイバー戦士もいるという。

 もちろん、彼らも本国へ上納するだけでなく、稼いだ一部はこっそり貯め込んでいるはず。さらに、海外にいることから、国際情勢や北朝鮮の置かれている状況なども把握している。つまり、北朝鮮のハッカーたちは、今回の亡命事件のように、いつ北朝鮮を離れてもおかしくない脱北予備軍ともいえる。冒頭に述べた韓国に亡命した軍幹部の亡命ルートは不明だが、彼の所属していた偵察総局は、まさにハッカーたちを統括すると見られている組織なのだ。

 かつては、脱北者イコール「貧しさに耐えきれず北朝鮮を離れた」というイメージがあった。しかし、今回、韓国入りした北朝鮮レストランのウェイトレスたち、そして偵察総局に所属していた軍幹部は、決して貧しいわけではない。彼らのように貧困層ではない、北朝鮮住民の脱北は今後も増えるだろう。経済的に余裕が生まれ、海外情報に接していれば、金正恩体制に不満を抱くことは避けられないからだ。

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ――中朝国境滞在記』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)がある。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。
dailynklogo150.jpg

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、中東停戦期待で「有事のドル

ワールド

トランプ氏、イラン作戦の早期終結示唆 NATO脱退

ワールド

ウクライナ、復活祭停戦巡り米と協議 NATO事務総

ワールド

米議会共和党指導部、DHS予算で2段階法案 行き詰
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    中国がイラン戦争最大の被害者? 習近平の誤った経済政策と石油危機が奏でる「最悪なハーモニー」
  • 3
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イラン恐怖」の正体
  • 4
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 5
    北京に代わる新都市構想は絵に描いた餅のまま...大幅…
  • 6
    人口減の自治体を救う「小さな浄水場」──誰もが常に…
  • 7
    カンヌ映画祭最高賞『シンプル・アクシデント』独占…
  • 8
    「え、なんで?」フライト中に操縦席の窓が覆われて…
  • 9
    年金は何歳からもらうのが得? 男女で違う「最適な受…
  • 10
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 3
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 4
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 5
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 6
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 7
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 8
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 9
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 10
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中