最新記事

アフガニスタン

アフガン女性リンチ殺人から1年、広がる抗議

多数のスマホでも記録された凄惨な死が、法と正義を求める運動のシンボルに

2016年4月11日(月)20時48分
シャハルザド・アクバル(オープンソサエティ・アフガニスタン・ディレクター)

勇気あるパフォーマンス 女性の名前を口にするのもタブーの国でリンチ殺人を再現する女優(昨年4月) Omar Sobhani-REUTERS

 アフガニスタンのカブールで、イスラム法専攻の女子学生ファルクンダ(27)が群衆のリンチに合い殺される現場を目撃した。

 いや、正確にはその場面を再現した演劇だ。アフガニスタンの勇気ある女優リーナ・アラムが、昨年3月に起きたファルクンダ殺害の模様を演じたのだ。

 私は数百人の観客の1人として、男たちがファルクンダをなぶり殺しにする場面を見た。彼女の痛みや絶望、孤独を思い、男も女も多くが泣いていて、しゃくり上げる者もいた。彼女はコーランを焼いたと非難されて、市中心部のこのモスクで殺された。

 女性の名前を公に口にすることさえタブーのこの国で、女性の死を公然と演劇で悼むというのは前例がない。

【参考記事】惨殺されるアフガン少女たち

 だが、司法システムはまだまだ追いついていない。事件後、49人が逮捕され(それでもごく一部だ)、そのうち13人が有罪になった。しかし最高裁は先月、13人の量刑を減らしただけでなく、4人の死刑判決を破棄した。

再審はなるか

 抗議が広がるなか、ガニ大統領の報道官は審理をやり直すと語ったが、安心はできない。アフガニスタンの司法制度は崩壊しており、再審を果たし、まして正義を手にするのは容易なことではない。だが、アフガニスタンの女性の命に意味を見出そうとするなら、やるしかないだろう。

 ファルクンダに対する暴力はいくつものスマートフォンで動画に収められていた。はやしたてる群衆や、何もせずに見ている警官の姿とともに永遠に記録され、ファルクンダは女性運動のシンボルになった(ファルクンダを救うより動画を撮るほうを選んだ結果だと思うと暗澹たる思いになるが)。

 先月には川べりにはファルクンダの碑が建った。群衆は彼女に石を投げつけ、車で轢いた後、身体に火をつけて川に投げ込んだ。

【参考記事】コーラン焼却事件が招いたアメリカへの憎悪の炎

 事件は、アフガニスタンの都市文化の醜悪な側面について改めて考えさせるものだった。群れる男たち、私刑の横行、法執行制度の破綻(ファルクンダ殺害に関与したとして逮捕された警察官は19人にのぼる)。

 アフガニスタンの人々は、この国の2つの顔のうちどちらかを選ばなければならない。モスクの前で人殺しをはやし立てたアフガニスタンか、彼女の死を悼み涙を流すアフガニスタンか。一人でも多くが後者に加わるよう祈ろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、メキシコ産トマトの大半に約17%関税 合意離脱

ワールド

米、輸入ドローン・ポリシリコン巡る安保調査開始=商

ワールド

事故調査まだ終わらずとエアインディアCEO、報告書

ビジネス

スタバ、北米で出社義務を週4日に拡大へ=CEO
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機」に襲撃されたキーウ、大爆発の瞬間を捉えた「衝撃映像」
  • 2
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中にまさかの居眠り...その姿がばっちり撮られた大物セレブとは?
  • 3
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別「年収ランキング」を発表
  • 4
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    【クイズ】次のうち、生物学的に「本当に存在する」…
  • 7
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 10
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 9
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 10
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中