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北朝鮮の対中非難は今に始まったことではない

2016年4月5日(火)18時33分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

 実は2012年12月にも北朝鮮のミサイル発射に関して中国が国連安保理の対北朝鮮制裁決議に賛同すると、北朝鮮は「責任のある大国たちが理性を失い」という言葉で暗に中国を非難している。

 7月1日の対中批判の背景には、2013年5月22日に朝鮮労働党中央委員会政治局常務委員の崔龍海が金正恩第一書記の特使として訪中したときの状況がある。23日に習主席と会うことはできたものの、従来の慣例である「手土産」は持たせなかった。いつもは北朝鮮政府高官が訪中後、帰国するときには、たとえば「約10万トンの糧食とか肥料とか石油」などの手土産を持たせるのだが、習主席は崔龍海特使を「手ぶらで」帰国させてしまったのである。この鮮明な対比は、金正恩の怒りを激増させる結果を招いていると、中国では分析している。

 中国としては、北朝鮮に新しい指導者が誕生すると真っ先に訪中して挨拶するのに、金正恩はせず、特使を派遣するに留めたことに不快感を抱いていた。北朝鮮は、翌月6月に行われる米中首脳会談に先立って、北朝鮮に不利なことを「習近平-オバマ」会談で話さないように釘を刺したつもりだろうが、裏目に出ている。

2.2014年7月24日: 労働新聞

 2014年6月29日、7月2日および7月8日、北朝鮮が弾道ミサイルを発射したことに対して、国連安保理で制裁決議が行われようとしていた。それに対して7月21日、北朝鮮の国防委員会は「中国が制裁に反対する意思表示をせず、北朝鮮を支持していない」ことに強い恨みを持っている発言をしたと、7月24日の労働新聞が伝えた。

3.2014年8月12日 : 「朝鮮中央通信」

 2014年8月10日、ミャンマーのネーピードーにおいて東アジア首脳会議(EAS)参加国外相会議が開催された際、北朝鮮の李外相は国際的な舞台で、「ある人は」という表現を用いて中国の北朝鮮政策に関して非難する発言を行なった。何度も繰り返し非難の言葉を、中国を暗示する「ある人」に対して言っているが、たとえば「ある人は誰に対して『抑制しなさい』といさめるべきかを勘違いしている」などと言っている。つまり「中国は、アメリカの朝鮮半島における威嚇をいさめるべきなのに、事態の掌握をまちがえ、米韓を庇護し、北朝鮮に圧力を与えている」という趣旨の非難をしているのだ。

 北朝鮮の李外相はこのとき中国の王毅外相とも中朝外相会談を個別に行っているのだが、8月12日の北朝鮮の朝鮮中央通信は、中朝外相会談には触れず、李外相の対中非難スピーチのみを報道し、中国政府を怒らせた。

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