最新記事

ニッポン社会

今では「ガイジン」じゃなく「YOU」と言われる

日本は変わったって? この10年の日本の変化は小さなものばかりだ――コリン・ジョイスの「新作」日本論より(3)

2016年2月22日(月)17時30分

日本を10年以上見てきた 銀座線の車両がピカピカになったり、渋谷で東横線の駅が地下に潜ったり、地ビールの伝統が根づいたりと変化はいろいろあったが、どれも大した話ではないし、大きな変化がないのは悪いことではない(写真はイメージです) Casarsa-iStock.

 以前は日本に住んでいたものの、イギリスに帰ってもう5年。そんな英国人ジャーナリストが、日本の読者向けに日本社会の"入門書"を書いた。コリン・ジョイスならば、それも可能である。本誌ウェブコラム「Edge of Europe」でもお馴染みのジョイスは、92年に来日し、高校の英語教師や本誌記者、英紙『デイリーテレグラフ』東京特派員などを経て、2007年に日本を離れた(ちなみに、詳しいプロフィールはこちら)。

 06年に著した『「ニッポン社会」入門』(谷岡健彦訳、NHK生活人新書)は10万部を超えるベストセラーに。その後も、『「アメリカ社会」入門』(谷岡健彦訳、NHK生活人新書)、『「イギリス社会」入門』(森田浩之訳、NHK出版新書)と、鋭い観察眼と無類のユーモアを注ぎ込んだ一連の著作で多くのファンを獲得している。

 このたび、そのジョイスが新刊『新「ニッポン社会」入門――英国人、日本で再び発見する』(森田浩之訳、三賢社)を上梓。思いもよらない新たな発見が綴られた「目からウロコ」の日本論であり、抱腹必至のエッセイ集でもある本書から、一部を抜粋し、3回に分けて掲載する。

※第1回:飛べよピーポ、飛べ。そしてズボンをはきなさい
※第2回:どうして日本人は「ねずみのミッキー」と呼ばないの?

 以下、シリーズ最終回は「16 日本は今日も安倍だった」から。

◇ ◇ ◇

 久しぶりに誰かに会うと、すぐにわかるのは外見の変化で、次に癖や態度や性格などの変化に気づく。でもその人にいつも会っていると、ゆっくりと起きている変化にはなかなか気づかない。

 日本とぼくについても、同じことが言える。ときには日本に住んでいる人ならすっかり慣れてしまったことが、突然ぼくを驚かせる。たとえば銀座線のピカピカの新しい車両を見て、ぼくはショックに近いものを感じた。あの古ぼけた「レトロ」な車両は、銀座線の「魂」とでも呼ぶべきものだと思っていた。

 まわりの人たちは、ぼくが持っているこの特別な「才能」にときどき気づいて、日本がどんなふうに変わったのか教えてくれと言う。そう言われると、ぼくは言葉に詰まってしまう。ざっと見渡したところ、ぼくは日本が大きく変わっているとは思えないからだ。ぼくはみんなに、外国人観光客がものすごく増えたというかもしれない。あるいは渋谷駅で東横線を見つけられず(「昔は頭の上にあったのに、今は一マイルくらい地下に潜るんだ!」)、たとえ見つけられても、ぼくが行きたかった桜木町駅に電車は行かなくなっていたから、仮に見つけていても意味がなかったという話をして、彼らを喜ばせるかもしれない。

 でもそれらは、しょせん大した話ではない。厄介なことに、ぼくは自分が日本を離れてから、この国がそれほど変わったとは思えないのだ。初めて住んだときから二〇年以上がたつが、その間に日本に根本的な変化があったかどうか疑問が残る。

 一〇年くらい前、東京でイギリスの新聞の特派員をしていたとき、ぼくは日本の置かれている大きな状況を、いくつかの文章にして頭の中にまとめておこうとした。日本の経済は停滞していて、大規模な公共事業を行わないと成長できず、公的債務は増えつづけている。人口は高齢化が進み、出生率が低い。社会で活躍する女性はまだまだ少ない。政治に新しい時代が訪れたようにみえても、つねに権力は特定の政党に戻っていくようだ。アジアの近隣諸国との関係は良好ではなく、中国に追い越される可能性もある。

 ぼくはこの文章を、実際に書いたときより一〇年前にも書けただろうし、今も書けるだろう。むかし近所を走っていたさおだけ屋の車が、日本の象徴のように思えてくる。「二〇年前と同じ......」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ軍、クルスク州でロシア兵1万人と戦闘=司

ワールド

シリア首都の教会で自爆攻撃、20人死亡 IS犯行と

ワールド

イラン「報復の選択肢検討」、ホルムズ海峡封鎖か 米

ワールド

イラン議会がホルムズ海峡封鎖承認と報道、最高評議会
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 2
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「過剰な20万トン」でコメの値段はこう変わる
  • 3
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり得ない!」と投稿された写真にSNSで怒り爆発
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    イランとイスラエルの戦争、米国より中国の「ダメー…
  • 7
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 8
    EU、医療機器入札から中国企業を排除へ...「国際調達…
  • 9
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 10
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 1
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 7
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 8
    「アメリカにディズニー旅行」は夢のまた夢?...ディ…
  • 9
    イランとイスラエルの戦争、米国より中国の「ダメー…
  • 10
    全ての生物は「光」を放っていることが判明...死ねば…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 9
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中