最新記事

中国

習総書記「核心化」は軍事大改革のため――日本の報道に見るまちがい

2016年2月10日(水)17時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

 これは胡錦濤政権時代の「チャイナ・ナイン」(9人)と、習近平政権の「チャイナ・セブン」(7人)と同じ構造であり、同じ理由から「奇数」なのである。

 このことから見ても、いかに「集団指導体制」が1927年から重んじられていたかが、お分かりいただけるものと思う。

 ただし、毛沢東が文化大革命を発動した時には、国家主席さえ存在させなかったくらいだから、この機能は破壊されている。

 筆者が『チャイナ・ナイン』に関して反省することはまだある。

 胡錦濤政権時代、江沢民の権力への執着が強烈で激しい権力闘争が展開されていたことを描き過ぎたのかもしれない。そのため「権力闘争」という概念があまりに強く日本のジャーナリズムあるいは中国研究者の一部に植え込まれてしまったのか、習近平政権では状況が全く異なるというのに、何でも権力闘争に結び付けて解説すればいいという誤解を招いてしまっている。

 習近平自身は江沢民が推薦し、江沢民を後ろ盾として国家主席にまでのし上がった人間だ。胡錦濤政権とは中共中央政治局常務委員会における構成メンバーがまったく異なる。

 習近平政権が行っている反腐敗闘争などは、あくまでも「一党支配体制が崩壊するのを防ぐため」であり、権力闘争などをしているゆとりはないことを、ついでながら、反省を込めて書き添えたい。

 今般の「習総書記の核心化」を「個人崇拝のため」などと誤読していたら、「権力闘争という誤読」以上に日本には非常にマイナスの影響を与える。そのような国内事情ではなく、「他国との有事」に備えた(戦争はしないまでも)「戦闘準備」であることを見逃してしまうからだ。その意味で誤読は罪作りであり、日本の外交戦略を読み誤らせる。

 なお軍事大改革は、東シナ海や南シナ海問題を睨んではいるが、中国が「軍事力」に関して最も気にしているのは北朝鮮問題と台湾問題であることを忘れてはならない。

[執筆者]
遠藤 誉

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など著書多数。近著に『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ゼレンスキー氏、トランプ氏と28日会談 領土など和

ワールド

ロシア高官、和平案巡り米側と接触 協議継続へ=大統

ワールド

前大統領に懲役10年求刑、非常戒厳後の捜査妨害など

ワールド

中国、米防衛企業20社などに制裁 台湾への武器売却
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 5
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 6
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 7
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 8
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 10
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中