最新記事

シリア

サウジがシリアでISIS掃討か

喉から手が出るほど欲しい地上部隊を地域の大国が出してくれると聞いて喜んだが

2016年2月8日(月)19時15分
ジェフ・スタイン

話が旨過ぎ? 上機嫌でサウジ国防相(右)を迎えるカーター米国防長官(左)  Carolyn Kaster/Pool-REUTERS

 その驚くべきニュースは、たちまち世界中を駆け巡った。それはオバマ政権の夢であるばかりでなく、大統領選に出馬している立候補者たちにも政策にもマッチしている。これで、こう着状態にあるシリア情勢にも突破口が開けるかもしれない。

【参考記事】サウディ・イラン対立の深刻度

 先週、サウジアラビアの国防相が、シリアでISIS(自称イスラム国、別名ISIL)と戦うために地上部隊を出してもいいと発表すると、欧米の指導者たちは喜びに震えた。これまでアメリカを中止とした有志連合でシリア空爆を続けてきたが、空爆の限界は明らかだった。ISISを根絶やしにするにはやはり地上部隊の投入が不可欠だという声が高まっていた。

願ってもない援軍

 シリアから遠く世論から派兵の理解も得られないアメリカに代わって、中東地域の大国で同盟国のサウジアラビアが地上軍を投入してくれればまさに理想だ。

 アシュトン・カーター米国防長官はすぐに歓迎の意を表した。ホワイトハウス報道官のジョシュ・アーネストもこう言った。「同盟国のサウジアラビアが軍事的負担を担ってくれるのはありがたい」

 民主党の指名獲得を争うヒラリー・クリントン前国務長官とライバルのバーニー・サンダース上院議員も喜ぶだろう。サンダースは昨年秋の時点で、ISISなど過激主義の暴力と戦うためにNATO(北大西洋条約機構)のような軍事組織を作るべきだと提唱していた。ISISに勝つにはアラブ諸国やトルコのいっそうの貢献が必要、というのはクリントンの持論だ。

【参考記事】英議会がIS空爆を承認、反対派は「テロリストのシンパ」か

 だが、世の中そんなにうまい話はない。サウジが言っているのはこういうことだった。「米軍の地上部隊が先に行けばサウジ軍も有志連合に加わろう」

 サウジの言う「地上部隊」の意味が、アメリカの戦闘部隊のことを言っているなら、オバマや民主党だけでなく、共和党も決して派兵を支持しない。つまりアメリカからすれば、サウジのオファーは絵に描いた餅だ。

場違いな軍隊

 しかもサウジには、シリアでの長い戦闘に耐えられる能力のある遠征部隊は存在しない。イエメンではイランの支援を得た反政府勢力と戦っているサウジだが、それもほぼ空爆に限られている。総勢17万5000人のサウジアラビア軍は、もっぱら国内の治安維持のための軍隊なのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 

ビジネス

米地銀リパブリック・ファーストが公的管理下に、同業
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ」「ゲーム」「へのへのもへじ」

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    走行中なのに運転手を殴打、バスは建物に衝突...衝撃…

  • 7

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 8

    ロシア黒海艦隊「最古の艦艇」がウクライナ軍による…

  • 9

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中