最新記事

南シナ海

ASEAN国防拡大会議、米中の思惑――国連海洋法条約に加盟していないアメリカの欠陥

2015年11月4日(水)18時58分
遠藤 誉(東京福祉大学国際交流センター長)

したたか 中国はアメリカの弱みを知っていた (右は常万全国防相) Goh Seng Chong-REUTERS

 4日、「ASEAN10カ国+域外8カ国」の国防拡大会議があったが、合意に至らず共同声明は出されなかった。その背景には米中パワーの代理紛争を嫌うASEAN諸国と、米中の思惑がある。

共同声明見送り―――米中勢力争いに巻き込まれたくないASEAN諸国

 3日からマレーシアの首都クアラルンプールで、ASEAN(10か国)国防相会議が開催されている。4日からはASEAN域外8か国(日本、アメリカ、中国、ロシア、オーストラリア、インド、韓国、ニュージーランド)が加わったASEAN国防拡大会議が開催された。

 関心は、中国の覇権と、アメリカが南沙諸島で中国が造成する人工島の周辺12海里以内の海域に駆逐艦を派遣し航行の自由を主張したことに対して中国が反発するという対立に集まっている。

 しかしASEAN諸国にとっては、実は非常に迷惑なことなのだ。議長国のマレーシアのヒシャムディン国防相は、「南シナ海における意図しない衝突を避けるための法的拘束力を持った連絡メカニズムの策定を急ぐことは重要であっても、あくまでも問題の平和的解決を求める声」が相次いだと述べている。また「ASEAN以外の国が、これ以上加わって、緊張を高めないでほしい」という苦渋もにじませている。

 フィリピンはたしかにアメリカ軍の駐在を一定条件で認める方向で動いてはいるが、他のASEAN諸国は中国との利害関係が深い。「利害」というより、中国との友好的な経済関係なしに今後発展していくことには困難があることを知っている。

 その結果、アメリカが望むような「中国を制裁する」形での共同声明を出すことはできなかった。

 アメリカ、日本、フィリピン以外は、中国を制裁するような「南シナ海」とか「航行の自由」といった文言を盛り込んだ共同声明を出すことをいやがった。共同声明案は、3日のASEAN国防相会議ですでにその方向で出来上がっていたのだ。

 フィリピンを除くASEAN諸国は、この根本姿勢を崩そうとはしなかった。

 結果、アメリカ、日本、フィリピンの反対により、「中国に有利で、アメリカに不利な」共同声明発布は見送られたということだ。

アメリカは国連海洋法条約に加盟していない

 アメリカは、あくまでも11月1日付の本コラム「南シナ海、米中心理戦を読み解く――焦っているのはどちらか?」に書いたように、大統領選で民主党が不利になりそうなのを防ぐために動いている。自らのプレゼンスを主張するため、という「お国の事情」がある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

スイス中銀、ゼロ金利を維持 米関税引き下げで経済見

ワールド

ノーベル平和賞のマチャド氏、「ベネズエラに賞持ち帰

ワールド

ドイツ経済、低成長続く見通し 財政拡大でも勢い限定

ビジネス

IEA 、来年の石油供給過剰の予測を下方修正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア空軍の専門家。NATO軍のプロフェッショナルな対応と大違い
  • 2
    トランプの面目丸つぶれ...タイ・カンボジアで戦線拡大、そもそもの「停戦合意」の効果にも疑問符
  • 3
    「何これ」「気持ち悪い」ソファの下で繁殖する「謎の物体」の姿にSNS震撼...驚くべき「正体」とは?
  • 4
    死者は900人超、被災者は数百万人...アジア各地を襲…
  • 5
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキン…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 8
    「正直すぎる」「私もそうだった...」初めて牡蠣を食…
  • 9
    「安全装置は全て破壊されていた...」監視役を失った…
  • 10
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中