最新記事

中国

農民がショベルカーを「土砲」で攻撃する社会

なぜ爆薬が簡単に入手でき、「テロではない」とされる爆破事件がこれほど頻繁に起こるのか

2015年10月8日(木)16時17分
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)

抗議の手段として 土地収用に抗議する山東省の農民がショベルカーに土砲(追撃弾)を打ち込む映像が注目を集めた From YouTube

 2015年9月30日午後、広西チワン族自治区柳州市柳城県で連続爆発事故が起きた。死者10人の惨事となったこの事件は、中国社会特有の「暴力」の問題抜きには語れない。

「個人的な犯行」とされた同時多発爆破事件

 犯行には、18個もの時限爆弾を政府庁舎、スーパー、病院など市内各所に送り込み、一斉に爆発させるという大がかりな手法がとられた。爆弾は宅配便荷物に偽装されていた。当初は宅配業者が爆弾を運んだとの噂が流れたが、実際には容疑者本人や雇われた人間が運んでいたという。

 同時多発爆破事件ということから組織的なテロではないかとも見られたが、中国警察は事件当日の夜には容疑者を特定している。現地農民の韋銀勇という33歳の男性で、経営していた採石場が閉鎖されたことに対する報復だという。当局は、テロではなく個人的な犯行との見方を示した。また韋も爆発によって死亡していたと公表されている。

 国慶節(建国記念日)前日に起きた事件だけに、祝賀ムードに水を差さないようにするためのスピード解決ではないか、犯人をでっちあげたのではないか、との憶測も飛び交ったが、中国当局が強力なメディア検閲を実施しただけに中国メディアもこれ以上の情報を伝えていない。

 中国青年報の報道によると、問題となった採石場閉鎖は2013年のこと。土砂崩れなどの災害リスクがあること、経営者である韋が採石場を管轄する農村との間で貸出料をめぐり対立していたことが原因だという。閉鎖直後、韋はSNSに「殺人の時が来た」と犯行を匂わせる書き込みをし、警察に公共秩序騒乱罪で短期間の拘留処分を受けている。

自爆や爆破、土砲で当局に抗議する人たち

 規模の違いこそあれ、実は、爆破事件そのものは中国では珍しい話ではない。2013年には北京空港で車椅子の男が自爆する事件が起きた。政府の治安部隊に暴行を受け半身不髄になったこと、その保障を求めて陳情を繰り返したが認められなかったことが動機だった。

 2011年には、高速道路建設のために農地を収用された男が補償金額を不満に思い、江蘇省撫州市の政府機関3カ所を爆破する事件が起きた。この事件でも容疑者は現場で死亡している。

 最近話題となったのは山東省の土地収用現場だ。強制的な収用に抗議する農民が、ショベルカーに対し、手製の「土砲」を打ち込む映像がネットで公開され注目を集めた。この土砲は日本語で言うところの迫撃弾である。鉄パイプの片側を溶接し、火薬と砲弾を詰めて発射するというきわめて原始的な兵器で、日本でもかつて左翼過激派が多用した代物だ。火薬さえあれば比較的容易に作れるために、農村部での抗争ではしばしば登場する。


「爆破」の矛先は政府だけとは限らない。2013年2月、広東省掲陽市で村同士の「械闘」(村と村の抗争など、武器を持った集団同士の戦いを意味する)が起きたが、戦いのきっかけは旧正月のお祭りの行列が騒がしいというクレームだった。数百人が集まり、敵方に向けて花火やら土砲やらを打ち込んだり、火焔瓶を投げつけたりと大変な騒ぎになった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:FRBとトランプ政権、短期的経済見通しは一致

ビジネス

-マスク氏のスペースX、xAIやテスラとの合併検討

ワールド

トランプ氏、カナダ製航空機への関税警告 認証取り消

ワールド

北朝鮮の金総書記が大規模建設プロジェクトを発表、党
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市 vs 中国
特集:高市 vs 中国
2026年2月 3日号(1/27発売)

台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「副産物」で建設業界のあの問題を解決
  • 3
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大胆な犯行の一部始終を捉えた「衝撃映像」が話題に
  • 4
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 5
    秋田県は生徒の学力が全国トップクラスなのに、1キロ…
  • 6
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 7
    パキスタン戦闘機「JF17」に輸出交渉が相次ぐ? 200…
  • 8
    日本経済を中国市場から切り離すべきなのか
  • 9
    配達ライダーを飲み込んだ深さ20メートルの穴 日本…
  • 10
    日本はすでに世界第4位の移民受け入れ国...実は開放…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 3
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 4
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 5
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味…
  • 6
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 7
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 8
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中