最新記事

ニュースデータ

殺人より自殺に走る「内向型」日本人は政府にとって都合が良い

2015年7月21日(火)15時00分
舞田敏彦(教育社会学者)

 以上は7カ国の比較だが、世界は広い。比較の対象をもっと広げてみよう。上記の資料から、94カ国の殺人発生率と自殺率を収集し、その国際的な位置付けを明らかにしてみた。<図1>は、横軸に自殺率、縦軸に殺人率をとった座標上に、94の社会のデータを配置したグラフだ。

dataessey0721-chart2.jpg

 日本や韓国は、自殺率が高く殺人率はとても低いので、右下の底辺を這うような位置にある。対極の左上はその逆だが、先ほど取り上げたブラジル(伯)よりもさらに上の社会があり、中米のエルサルバドルやベネズエラなどは外向性がもっと際立っている。

 図中には、内向率を表す斜線を引いている。50%のラインよりも上、つまり自殺よりも殺人が多い社会は30あり、全体の3分の1ほどである。日本の感覚からすれば思いもよらないが、自分よりも他人を殺める社会が結構ある。その程度が著しいのが左上の社会で、多くが中南米やアフリカの国々だ。右下にあるのは、攻撃性のほとんどが自分(内)に向く「内向的」な社会と読める。言わずもがな、日本はその典型である。

 わが国は治安が良く、安全な社会だと言われるが、近年にあっては国民の生活不安をもたらす要素は数多くある(格差、貧困、老後の厳しい生活......)。それにもかかわらず社会の秩序が揺るがないのは、これらに由来する苦悩や葛藤の多くが「自己責任」として切り捨てられているからだ。育児や介護などと同じく、生存危機の処理も「私」依存型の社会のようだ。

 統治者にすれば都合の良いことだろうが、このような社会が健全であるとは思えない。「他人に助けを求めるのは恥ずべきこと」、「何でもかんでも自己責任」という機械的な思考を克服すると同時に、この「内向的」な国民性の上に政府があぐらをかいていないか、国民は絶えず監視の目を向ける必要があるだろう。

(出典資料:UNODC「Crime and criminal justice statistics」
WHO「Mortality Database」

<筆者の舞田敏彦氏は武蔵野大学講師(教育学)。公式ブログは「データえっせい」

≪この筆者の記事一覧はこちら≫

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ハメネイ師標的なら対応「無制限」、高濃縮ウランは移

ワールド

焦点:トランプ氏のイラン攻撃は「最大の賭け」、リス

ワールド

韓国、米に懸念表明へ 半導体装置の特例措置撤回観測

ワールド

米がイラン核施設攻撃、和平迫るトランプ氏 イスラエ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 2
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    イランとイスラエルの戦争、米国より中国の「ダメー…
  • 6
    【クイズ】次のうち、中国の資金援助を受けていない…
  • 7
    ジョージ王子が「王室流エチケット」を伝授する姿が…
  • 8
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 9
    イタすぎる? 人気歌手のコンサートで「はしゃぎすぎ…
  • 10
    中国人ジャーナリストが日本のホームレスを3年間取材…
  • 1
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 7
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 8
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?.…
  • 9
    「アメリカにディズニー旅行」は夢のまた夢?...ディ…
  • 10
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 9
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中