アングル:米援助削減で揺らぐ命綱、ケニアの子どもの栄養失調深刻に
写真は栄養失調の検査を受けるピーター・ロコイエンちゃん。10月29日、ケニア・トゥルカナ州ロモレム村で撮影。REUTERS/Monicah Mwangi
Ammu Kannampilly
[ロモレム(ケニヤ) 12日 ロイター] - ケニアの牧畜民のヘレン・エティマンさんは、重度の栄養失調になった息子のピーター・ロコイエンちゃん(4)について、特別な栄養治療食の投与を始めればすぐに回復すると信じていた。
だが、ピーターちゃんの症状は、治療を受けていた医療施設で備蓄が尽きた7月に再発。一家は北西部トゥルカナ郡の不毛な平原で自生する果物を採って食いつなぐしかなかった。
ピーターちゃんの体重は10月下旬までに11.4キロに落ち込んだ。世界保健機関(WHO)が示す同年齢男児の体重の中央値の3分の1にも満たない。身長はわずか87センチ強しかなく、生後20カ月の妹メルビンちゃんとほとんど変わらなかった。
現職および元援助当局者の5人がロイターに語ったところによると、トランプ米大統領が米国際開発局(USAID)の解体と対外援助のほぼ全面的な削減を決定したために、ピーターちゃんのような子どもたちの命綱は断ち切られたという。
USAIDは「栄養治療食(RUTF)」の世界供給量の約半分について購入・分配資金を供給している。RUTFはピーナッツを主原料とした高栄養ペーストで、「重度急性栄養不良」もしくは「消耗症」として知られる、最も致死的な栄養不足状態の子どもたちの治療に用いられる。
RUTFの購入・配布で世界最大規模を誇る国連児童基金(ユニセフ)によると、ケニアの一部地域で干ばつによってこの栄養ペーストの需要が増加している一方で、栄養失調を検診するための地域住民に対する支援活動の資金が削減されたため、子どもたちがより深刻な状態で医療施設に運ばれてくるようになっているという。
ユニセフはロイターに対し、RUTF供給のための資金の大部分は3月に回復したが、一部の施設で「短期的な運営上の問題」に関連した不足が生じていると語った。
<空の医療棚>
しかしながら、トゥルカナ郡の医療従事者や援助関係者は供給網の回復に時間がかかっていると話す。
ロイターの記者が10月末、トゥルカナ郡内の診療所7カ所を調査したところ、全ての施設でピーナッツペーストの棚はほぼ空になっていた。この地域は度重なる干ばつや、牧畜民同士の断続的な紛争、そして最近のイナゴの大量発生が飢餓に拍車をかけている。
ケニアは東アフリカで経済が最も発展し、ソマリアやスーダンなどでの紛争から逃れてきた人々の避難先となっている。
米国が資金提供する非営利団体「マーシー・コープ」のアフリカ担当ディレクター、メラク・イルガ氏は「ケニアでこのような事態が起こりうるなら、より不安定な状況に既に直面している国々の先行きにも深刻な懸念が生じる」と語った。
ユニセフはロイターに対する声明で、ロイターが訪問した施設のうち4カ所は最近物資を届けており、残りの3カ所は政府運営の援助拠点からの配送を待っている段階だと述べた。
しかし、一部の子どもたちにとっては、生涯にわたる身体的・認知的ダメージを防ぐには援助が遅すぎる可能性があるとイルガ氏は指摘する。
「重度の栄養失調の子どもが数カ月間RUTFを摂取できない場合、その健康に対する影響が深刻で、時には取り返しのつかない成長障害や免疫力の低下、脳の発達障害が生じる可能性がある」とイルガ氏は述べた。
トランプ氏は米国が対外援助で不相応に負担していると主張し、他国により多くの負担を引き受けるよう求めている。英国、フランス、ドイツ、オランダ、スウェーデンでもここ数年、国内の優先課題に注力するために対外援助を縮小している。
ルビオ米国務長官は、米国の対外援助削減伴う死亡例について、度々否定している。
米国務省はロイターの取材に対し、政府が重度急性栄養不良児に対する救命介入を支援するなど世界的な栄養失調と食料不安の対応に取り組んでいると答えた。
同省は8月、ケニアを含む13カ国の約100万人の子どもたちのためにRUTFを調達・分配するための追加資金として9300万ドル(約144億3500万円)をユニセフに提供すると発表。
「われわれの支援はケニアやパートナー諸国が自らのニーズを満たせるようにすることを意図しており、地域や地方の責任に取って代わるのではない」と表明した。
ケニア保健省は国務省の発言や栄養失調対策を巡る援助削減の影響についてコメントを控えた。
<かつてない不足状況>
主要な世界的飢餓監視システムである「総合的食料安全保障レベル分類」によると、ケニアでは現在、約17万9000人が緊急事態レベルの飢餓に直面しており、その大部分はトゥルカナ郡を含む4つの乾燥地帯に集中している。
同分類は9月時点で、25年4月から26年3月までの間にトゥルカナ郡だけで、5歳未満の子ども8万7200人以上が急性栄養失調の治療を必要とし、そのうち1万7000人が重度の消耗症に陥るだろうと推計した。
ピーターちゃんの母親エティマンさんは長年の干ばつで一家のヤギの群れが全滅し、5人の子どもを食べさせるのに苦労していると語った。
エティマンさんは3月、異変に気づいた。かつて活発だったピーターちゃんが日中、長時間眠り続けるようになったのだ。片道1時間の道のりを歩いてカンガトサにある最寄りの医療施設へ息子を連れて行き、そこで栄養士からRUTFの処方を受けた。
6週間から3カ月間、毎日少なくとも2袋のピーナッツ・ペーストを摂取するだけの簡単な治療法は、5歳未満の子どもの重度消耗症の治療に極めて高い効果があることが証明されている。
しかし、エティマンさんが支給品を受け取りに6月にカンガトサを再訪した際、診療所の在庫は既に底をついていた。地域住民に対する支援活動が10月下旬、ピーターちゃんの身体測定のために彼女の自宅を訪れた際、ピーターちゃんは衰弱しきり、幼少期に起こるとほぼ取り返しが付かなくなるとされる発育不良の兆候が見られた。
「あの子は日に日に弱まり、動かなくなっている。回復する見込みは全くないのではないかと感じる」とエティマンさんは語った。
ロイターが訪問した診療所のうち4カ所は、医療従事者が少なくとも3カ月間、RUTFが全くない状態で運営を続けていると話した。他の3施設は合計で約300袋の在庫があったが重度の栄養失調児2、3人を治療する分でしかない。
親たちはこうした結果、子どもを連れてきたり検査プログラムに参加したりするのをやめてしまい、危機の規模を把握するのが難しくなっていると医療従事者たちは述べた。
ロイターは過去の干ばつの際もトゥルカナにいた5人のケニア人医療従事者、現職の援助関係者、および元ユニセフ職員にインタビューした。全員が現在の不足状態は前代未聞だと語った。
<資金削減>
ユニセフはロイターの取材で、支援していた栄養失調の集団検診プログラムが資金削減のために中止されたことを明かした。
ケニア保健省の資料などによると、集団検診プログラムでは23年、国内の栄養失調が起こりやすい地点の75%を対象としていたが、8月時点で15%未満にまで大幅に減少した。
国連人道問題調整事務所(OCHA)によると、米国は依然として世界の栄養プログラムに対する最大の単独資金拠出国だが、その金額は今年これまでで2億6300万ドル弱にとどまっている。24年の拠出額は9億9100万ドルだった。
マーシー・コープは11月、米国務省からケニア北部の60万世帯に対する栄養失調削減を目的としたプログラム向けに残りの資金全額の提供を停止するとの通知を受けたと述べた。
世界食糧計画(WFP)の10月の発表によると、WFPに対する世界的な資金提供額は24年に98億ドルだったが、25年に40%減の64億ドルに落ち込むと予測されている。
ロイターが確認したケニア保健省の資料によると、ケニアは1月までの需要を満たす量のRUTFを確保できる見込みで、そのほぼ全てがユニセフを通じて提供されている。
11月、カンガトサの診療所には6月以降初めて7箱のピーナッツ・ペーストが届いた。
担当栄養士のピーター・トゥルケ氏は、エティマンさんの息子ピーターちゃんが治療を再開したと述べた。しかし、前回の体重測定後の3週間にマラリアを発症し、体重が10%以上減ってしまった。
11月21日時点で、ピーターちゃんの体重は9.9キロだった。





