最新記事

依存症

「禁酒国」イランの皮肉な現実

最大80回のムチ打ち刑などの厳罰もアルコール依存を止められない

2015年6月29日(月)17時02分
ローラ・モフタ

危険も顧みず 密造酒による健康被害が後を絶たない Jamal Penjweny-REUTERS

 イランでは79年の革命以来、飲酒はご法度。なのにアルコール依存症の問題は世界でも特に深刻だ。飲酒に対する厳罰は歯止めになるどころか、かえって逆効果になっている。

 保健当局はようやく問題の大きさを認め、アルコール依存症治療施設を150カ所新設すると発表した。新施設は患者に断酒を促す「特別な環境」と共に断酒教育も提供。来年3月までにオープン予定の6施設で解毒のための入院治療も可能になるという。

 イランのアルコール依存症治療施設の第1号がオープンしたのは13
年。しかし飲酒に対する厳罰(最大80回のムチ打ち刑など)を恐れて治療をためらう患者も多い。

 イラン警察の推計ではイランのアルコール依存症患者は20万人。だが実際はもっと多いのではないかと専門家はみている。

 国民1人当たりのアルコール消費量ではイランは世界で166位だが、問題の深刻さでははるかに上位になるはずだと、イランの市民ジャーナリストは指摘する。「年間飲酒量が純粋アルコール換算で35リットルを超える人の数は世界19位。人口に占めるアルコール依存症患者の割合ではロシア(30位)、ドイツ(83位)、アメリカ(104位)、サウジアラビア(184位)を上回っている」

「イランは昔から隠そうとしてきたが、飲酒とアルコール依存症は現実に存在する」と、イラン警察のトップは言う。

 穏健派のロウハニ政権が発足した13年以降、アルコール飲料の消費・生産に対する警察の強制捜査は減少しているが、禁を破った場合の厳しい処罰は変わらない。アルコールによる健康被害が増加しているためだ。

 警察はアルコール飲料の密輸に目を光らせているが、多くのイラン人が飲んでいるのは怪しげな密造酒。その結果、病気になったり死亡したりするケースが急増している。早急な対策が必要だ。

[2015年6月23日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

エジプト、ハマスに武装解除を提案 安全な通行と引き

ワールド

トランプ氏、関税「プランB必要」 違憲判決に備え代

ワールド

オラクル製ソフトへのハッキング、ワシントン・ポスト

ビジネス

米国のインフレ高止まり、追加利下げに慎重=クリーブ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの…
  • 5
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 6
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 7
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 8
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 9
    あなたは何歳?...医師が警告する「感情の老化」、簡…
  • 10
    約500年続く和菓子屋の虎屋がハーバード大でも注目..…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中