最新記事

テクノロジー

3Dプリンターでシリアの戦場に義肢を

南アのロボハンド社が製造する低価格かつ高機能な義肢がシリアで大活躍

2014年9月29日(月)12時24分
ジョン・ベック

増える犠牲者 シリアでは2万人以上が内戦で手足を失っている(首都ダマスカス郊外の簡易診療所) Badra Mamet-Reuters

 内戦の嵐が吹き荒れるシリアに行くことになれば、普通なら二の足を踏むだろう。従軍記者ですら誘拐を恐れて取材を拒む、世界有数の危険地帯だからだ。

 だがリチャード・バンアズは動じなかった。「シリアに行くことになってワクワクした。よほど退屈していたんだろう」

 危険にスリルを感じたわけではない。今年の春、バンアズが南アフリカのヨハネスブルクを出てシリアに向かったのは、内戦で手や指を失った人々に自身の開発した低価格の義肢を提供するためだ。

 とはいえバンアズを知る実業家のミック・エベリングによれば、彼は「最高に思いやりがある一方で、最高にクレージーな男」。向こう見ずな行動はいつものことだという。

 シリアでバンアズは砲撃をかわし、検問所をくぐり抜けた。食あたりに苦しんだ以外は、無傷でトルコに出国した。

 ある日の夕食で、アルカイダ系武装勢力アルヌスラ戦線の戦士と隣り合わせたこともあった。後で分かったことだが、戦士は自爆テロ用の爆弾入りチョッキを身に着けていたという。

 シリアでバンアズが3Dプリンターなど義肢を作る装置を設置したのは、非営利団体が出資しているナショナル・シリア義肢プロジェクト(NSPPL)の診療所だ。

 NSPPLはシリアとの国境近くにあるトルコ南部の町レイハンルと、反政府勢力が制圧したシリア北部イドリブ県のハザノで診療所を経営している。ハザノの診療所には、民間援助団体エブリ・シリアンが6万ドルを援助している。

 バンアズ自身にとって、義肢の開発は切実な問題だった。大工だった彼は11年、仕事中に事故で右手の指を4本失った。だが調べてみると、義肢は手が出ないほど高価だった。

 そこでバンアズは義肢を自ら開発することにした。「義肢が必要な人間に対する病院の態度も、値段も気に入らなかった。自分で作れば人助けもできる」

 バンアズはアメリカ人の特殊効果デザイナー、アイバン・オーウェンと協力して自分用の義指を開発し、続いて5歳の少年に手と指を作って提供した。

 12年には義肢製造会社ロボハンドを立ち上げ、これまでに作った機械制御の上肢は200を超える(現在、義足も開発中)。ロボハンドの義肢は熱可塑性プラスチックを3Dプリンターで成形し、アルミニウムのパーツを組み合わせて仕上げる。手首や肩の関節の動きに反応して動き、電子機器は必要としない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

三菱電機と台湾鴻海、AIデータセンター分野で提携

ワールド

米民主重鎮ペロシ氏が政界引退へ、女性初の下院議長

ワールド

中国商務省報道官、EUとの貿易・投資協定交渉に前向

ワールド

米ユナイテッドとデルタ、7日の便の欠航開始 各20
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの…
  • 5
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 6
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 7
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 8
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 9
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 10
    約500年続く和菓子屋の虎屋がハーバード大でも注目..…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中