最新記事

内戦

和平会議直前のシリアに大量虐殺疑惑

アサド政権への風当たりが弱まり和平会議が開催されようとする中で発覚したシリア政府当局による最悪の戦争犯罪疑惑

2014年1月22日(水)16時20分
ジョシュア・キーティング

戦争犯罪 眼隠しと手錠をされた反政府勢力の拘留者たち(2013年5月) Sana-Reuters

 内戦状態が続くシリアに再び平穏が訪れるのはいつになるのか。内戦終結を目指し、スイスのジュネーブでは22日から国際和平会議が開催される予定だが、スタート前からすでに大混乱の様相を呈している。

 まず問題となったのは、イランを会議に招待すると発表しておきながら、直前になって撤回したこと。さらに21日にはシリア政府代表団を乗せた飛行機が、経由地のギリシャ・アテネで給油を拒否されて足止めされるというトラブルに見舞われた。

 だが最も深刻な問題は、シリアのバシャル・アサド政権がこれまでに1万人以上の拘留者を拷問し、大規模な殺害を行ってきたとする報告書が発表されたことだ。

 写真を含む多くの証拠を報告書で公開したのは、シエラレオネやユーゴスラビアでの戦争犯罪を担当した経験を持つ3人の弁護士。報告書は「密かにシリア反体制派に通じ、後に政府から離反して国から脱出した憲兵」の証言に基づいている。彼は国を離れるとき、政府側が撮影した写真などの膨大な証拠を持ち出したという。

 報告書によれば、拘留者の遺体の写真は1万1000人分が存在するという。3人の弁護士は「シリア政府の関係者によって拘留者に対する組織的な拷問や殺害が行われた」と示す十分な証拠があると主張。シリア政府の戦争犯罪や人道に対する罪を十分に裏付けているとする。

 報告書は英ガーディアン紙や米CNNテレビによって報じられ、カタール政府も信憑性を認めている。ただ、たとえ報告書の内容が真実でも、シリア政府の当局者が国際刑事裁判所(ICC)によって戦争犯罪に問われる可能性は低い。シリアはICCに加盟していないからだ。非加盟国であっても国連安保理の権限によってICCで取り扱うことは可能だが、シリア寄りで安保理の拒否権を持つロシアがそれを許すとは考えにくい。

 とはいえ今回公表されたおぞましい証拠が、国際社会がシリアを見る目やジュネーブでの和平会議の議論に影響を及ぼすのは間違いない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン氏とブダペストで会談へ、トランプ氏が電話会

ビジネス

日銀、政策正常化は極めて慎重に プラス金利への反応

ビジネス

ECB、過度な調整不要 インフレ目標近辺なら=オー

ビジネス

中国経済、産業政策から消費拡大策に移行を=IMF高
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口減少を補うか
  • 2
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 3
    間取り図に「謎の空間」...封印されたスペースの正体は?
  • 4
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 5
    【クイズ】サッカー男子日本代表...FIFAランキングの…
  • 6
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 7
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 8
    疲れたとき「心身ともにゆっくり休む」は逆効果?...…
  • 9
    ホワイトカラーの62%が「ブルーカラーに転職」を検討…
  • 10
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇…
  • 1
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 4
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 5
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 6
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中