最新記事

アノニマス

シリアに総攻撃をかけるハッカー集団

アメリカの軍事介入を回避したアサドだがサイバー攻撃の脅威は止まらない

2013年10月31日(木)17時50分
ジェブ・ブーン

連帯のしるし アノニマスのシンボルのマスクをかぶってアサド政権に抗議するシリア市民 Muzaffar Salman-Reuters

 国際的なハッカー集団アノニマスがシリアのアサド政権に対する攻勢を強めている。最近、シリアの政府機関のサーバーにハッカー攻撃を仕掛け、そこで得た情報をリークしたのだ。今後もシリア政府内のコンピューターシステムを標的に攻撃を続ける予定だ。

 アサド政権に対するアノニマスの実質的な攻撃部隊として活動中の「オプ・シリア」は最近、シリア特許庁(SPO)のサーバーへのアクセスに成功し内部資料をリークした。その中には、SPOの業務に関するものやSPO内のファイルに保存されている特許に関する新しい法規制やその宣伝用のイメージ画像などが含まれていた。

 オプ・シリアの旗印の下で多くのグループが活動しているため、ハッカー攻撃の明確な目的を知ることは難しい。SPOのサーバーに侵入したグループは、シリア内のどの反体制派の側に立っているわけでもなく、反体制派である自由シリア軍との連携やその他の反アサド軍との連携を宣言しているわけでもない。

 しかし今回の活動に関与したあるハッカーは、シリア政府内の全てのコンピューターシステムを標的にすることを検討している、と話す。そして、ハッキングで得た資料を使い2011年以降10万人を超える犠牲者を出した内戦に対するシリア政府の関与を明らかにすることを目指していると言う。

「(シリア政府による)化学兵器の使用を裏付ける資料を見つけ出すことが第1の目的だ。ハッカー攻撃は、『シリア政府に対して我々はまだお前たちを監視している。シリア国民が我々が味方していると気付くまでこの行為を続ける』というメッセージを送る上で最高の手段だ」と、オプ・シリアに参加するアノニマスの関係者は話す。

「シリア軍のセキュリティーシステムにハッカー攻撃を仕掛けられる弱点を見つけ出せたら、もちろん嬉しい。ただ、情報漏えいさせるだけでもシリア政権に恥をかかせることができるし、オプ・シリアの活動に対する注目も高まる」

 昨年、シリア内の反体制派はアノニマスのような国際的なハッカー集団を大勢味方につけてアサド政権に対して幾度か攻撃を仕掛けた。12年初めには、アノニマスはアサド大統領のメールアカウントをはじめ政権内のメールアカウントに侵入している。アサド政権がシリア全土のネット回線を遮断すると脅かした昨年11月にも、アノニマスは改めてシリアのハッカーに対する支援を表明した。

 しかし、何人かの逮捕者や有罪判決が出たことで、オプ・シリアの活動は今年3月にはほとんど停止した状態になった。一方で、アサド政権寄りのシリア電子軍(SEA)がサイバー戦争において勢力が強めている。

 メンバーが流動的なため、今日のオプ・シリアは過去のオプ・シリアとは大きく異なっている。シリア政府が使っている幾つかのコンピューターシステムへの新しい侵入方法を見つけたメンバーもいる。その中で何か政権の弱点を見つけたら、リークするに値するか否かをオプ・シリアの組織内で検討する、とメンバーは話す。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:トランプ氏なら強制送還急拡大か、AI技術

ビジネス

アングル:ノンアル市場で「金メダル」、コロナビール

ビジネス

為替に関する既存のコミットメントを再確認=G20で

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型ハイテク株に買い戻し 利下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ暗殺未遂
特集:トランプ暗殺未遂
2024年7月30日号(7/23発売)

前アメリカ大統領をかすめた銃弾が11月の大統領選挙と次の世界秩序に与えた衝撃

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理由【勉強法】
  • 2
    BTS・BLACKPINK不在でK-POPは冬の時代へ? アルバム販売が失速、株価半落の大手事務所も
  • 3
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子どもの楽しい遊びアイデア5選
  • 4
    キャサリン妃の「目が泳ぐ」...ジル・バイデン大統領…
  • 5
    地球上の点で発生したCO2が、束になり成長して気象に…
  • 6
    カマラ・ハリスがトランプにとって手ごわい敵である5…
  • 7
    トランプ再選で円高は進むか?
  • 8
    拡散中のハリス副大統領「ぎこちないスピーチ映像」…
  • 9
    中国の「オーバーツーリズム」は桁違い...「万里の長…
  • 10
    「轟く爆音」と立ち上る黒煙...ロシア大規模製油所に…
  • 1
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラニアにキス「避けられる」瞬間 直前には手を取り合う姿も
  • 2
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを入れてしまった母親の後悔 「息子は毎晩お風呂で...」
  • 3
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」、今も生きている可能性
  • 4
    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…
  • 5
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理…
  • 6
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子…
  • 7
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 8
    「失った戦車は3000台超」ロシアの戦車枯渇、旧ソ連…
  • 9
    「宇宙で最もひどい場所」はここ
  • 10
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った猛烈な「森林火災」の炎...逃げ惑う兵士たちの映像
  • 3
    ウクライナ水上ドローン、ロシア国内の「黒海艦隊」基地に突撃...猛烈な「迎撃」受ける緊迫「海戦」映像
  • 4
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 5
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラ…
  • 6
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 7
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを…
  • 8
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」…
  • 9
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「…
  • 10
    「どちらが王妃?」...カミラ王妃の妹が「そっくり過…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中