最新記事

シリア

アメリカのシリア軍事介入は遅すぎる

化学兵器の使用が確認されたとしても、今からの軍事介入は内戦を拡大させるだけ?

2013年6月17日(月)16時03分
マック・デフォード(元米外交官)

見えない出口 首都ダマスカスでも激しい戦闘が続く。国連は、内戦による死者数が4月末までに9万3000人に達したと発表した Goran Tomasevic-Reuters

 化学兵器の使用は「レッドライン(越えてはならない一線)」だ――内戦が続くシリアのアサド政権に対し、バラク・オバマ米大統領は以前からこう警告してきた。使用が確認されれば軍事介入する可能性もある。ただし使用が事実かどうかは米情報当局の見解にばらつきがあるとして、軍事介入には慎重な姿勢を崩さなかった。

 しかし他の国々から使用の可能性を指摘する声が高まるなか、オバマの対シリア政策も岐路に立たされている。中東に関して経験不足のオバマは、これまでも不勉強を露呈する発言で自分の首を絞めてきた。1期目当初、イスラエルにヨルダン川西岸地区の入植地建設中止を要求し、ベンヤミン・ネタニヤフ首相に一蹴された。イランの核開発に対するレッドラインも不明瞭だ(今のところ状況を悪化させてはいないが)。

 シリアの未来に目を向ければ、早くもアサド政権はまんざらでもなかったとすら思えてくる。シリア第2の都市アレッポでは、国際テロ組織アルカイダ系の反体制派が「発電所を牛耳りパン屋を経営し、裁判長としてイスラム法を適用している」とニューヨーク・タイムズ紙は報じた。

 2年間の内戦は反体制派を過激化させ、アラブ各地からイスラム過激派を引き寄せている。記事は「シリアの反体制派の支配地域では世俗派の戦闘部隊は存在しない」と指摘。現地を何度も訪れている米シンクタンク軍事研究所のアナリストも、反体制派に「世俗派は残っていない」とコメントしている。

ロシアもサウジも頼りにならない

 シリア内戦が長期化するほど、イスラム主義勢力が力を増すことは目に見えていた。私は今年初め、シリア空軍を壊滅させる作戦に一考の価値があると書いた。シリア軍は高い防空能力を備えているらしく、そのためかなりの代償を覚悟しなければならないだろう。だがアサド退陣を早め、より多くの世俗勢力によりよいチャンスを与えることになるはずだと考えたからだ。

 しかしもう手遅れだ。イスラム主義勢力が強くなり過ぎ、それがアサド政権の延命にもつながっている。イスラム過激派が権力を握るようなことになれば、少数派であるキリスト教徒やアラウィー派、アレッポや首都ダマスカスの知識階級や実業家の大半を占めるスンニ穏健派は窮地に陥る。

 親米の反体制派が勝利を確実にするような介入のチャンスは過ぎ去った。アサド続投を主張するロシアと協議したところで無駄だろう。サウジアラビアは反体制派に武器を供与しているが、反体制派は権力を手にしたら今度はサウジアラビアに牙をむきかねない。

 流血がさらに3〜4年続き、レバノンを巻き込んだ戦争に発展し、イスラム過激派がダマスカスを制圧する事態になれば、アサドのほうがましだったと思えるかもしれない。いま分かっているのは、いい選択肢がないこと、どんな行動を取ろうと思わぬ結果が付きまとうことだ。

[2013年5月14日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国外相「日本が軍事的に脅かしている」、独外相との

ワールド

焦点:米政権の燃費基準緩和、車両価格低下はガソリン

ワールド

中国首相「関税の影響ますます明白に」、世界経済に影

ワールド

米とグリーンランド、「相互の尊重」を約束 米大使が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...かつて偶然、撮影されていた「緊張の瞬間」
  • 4
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 7
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 8
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 9
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「…
  • 10
    「1匹いたら数千匹近くに...」飲もうとしたコップの…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中