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中国指導部も驚く北朝鮮の核の実力

北朝鮮が3回目の核実験に成功すれば、核ミサイルは「実用化」段階に入る

2013年2月12日(火)15時45分
前川祐補(本誌記者)

北朝鮮が核ミサイルを手にする日がきた? KCNA-Reuters

 北朝鮮による昨年12月のミサイル発射を受けて国連は先月、同国に対して3度目となる制裁決議を採択した。北朝鮮は即座に「高度な核実験」を予告して決議に対する怒りをあらわにしたが、世界を驚かせたのはあの中国が決議賛成に回ったことだ。

 中国の姿勢はあくまでポーズなのか、それとも新たにトップに就任した習近平(シー・チーピン)が、外交政策を協調路線へと転換する兆しなのか。大半のアナリストもその真意を測りかねている。

「今回の一件で中国の真意を測るのは難しい」と、北朝鮮事情に詳しい関西学院大学の平岩俊司教授は言う。「ただ外交努力を続ける中国に対して、北朝鮮は度重なる『裏切り行為』でその顔に泥を塗り続けている」

 昨年4月の北朝鮮によるミサイル発射実験に対して、中国は制裁を含まない国連議長声明にとどめる内容を示し、他国の妥協を勝ち取った。今回も当初は議長声明でなんとか決着をつけようとしたが、アメリカとの40日にわたる交渉の末、中国はついに制裁決議をのんだ。

 そして怒った北朝鮮が新たな核実験に踏み切る──。いつか見たような光景だが、北朝鮮の「火遊び」に慣れたはずの中国が今回、最終的に決議をのんだのは、核をめぐる危機がかつてない深刻なレベルに達しているためかもしれない。

ウラン型核弾頭の「脅威」

 北朝鮮は06年に初めて地下核実験を実施して以来、核実験とその核弾頭を搭載するためのミサイルの発射実験を交互に行ってきた。昨年12月のミサイル発射では、過去の実験の失敗原因とみられていた3段ロケットの切り離しに成功。地球の周回軌道にも乗ったことから、ミサイル部分については安定性と飛距離の両方で一定のめどが立ったとみられる。

 すると残るは核弾頭だ。北朝鮮が予告した「高度な核実験」という言葉から、次の実験では核弾頭の小型化と初のウラン型が試されるとみられている。弾頭の小型化成功は、アメリカも射程に捉える長距離弾道ミサイルへの搭載が可能になることを意味する。つまり、核爆弾として国内で保管されているだけの状態から、いよいよ核ミサイルとして「実用化」できる段階に進むということだ。

 またウラン型はその性質上、過去2回のプルトニウム型に比べて他国の衛星に探知されづらい。ウランを使った核実験が成功すれば、生産過程でも他国から感知されるリスクを減らすことができる。北朝鮮は大量生産も視野に入れるだろう。

 中国政府は、決議は平和解決の希望が盛り込まれた「バランスの取れたもの」だと誇らしげだ。ただ、国際社会は常任理事国という責任ある立場と、北朝鮮の後見人という2つの顔を使い分ける中国のやり方にしらじらしさも感じている。

 中国がいくら北朝鮮の非核化に努力していると力説したところで、北朝鮮が一向に姿勢を改めない現状を見れば、その主張は説得力に乏しい。北朝鮮が3度目の核実験を行えば、6カ国協議の主催国であり、北朝鮮の国際社会に対する窓口役を担ってきた中国政府が国際社会から追い込まれかねない。

 関西学院大学の平岩によれば、中国の対北朝鮮外交は次の核実験で分水嶺を迎えるという。北朝鮮向けの石油パイプラインを再び止めるといった経済制裁に出れば、中国の対北朝鮮外交の基本が揺らぎ始めた本当の兆候といえるかもしれない。

 北朝鮮の核実験は故・金正日(キム・ジョンイル)前総書記の誕生日である2月16日か、あるいはそれ以前にも実施されると予測されている。「仏の顔も三度まで」と言うが、中国は今度こそ北朝鮮を見放すのだろうか。

[2013年2月12日号掲載]

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