最新記事

ベネズエラ

暴君チャベスの後継者争いが始まった

本人はマドゥロ副大統領を指名しているが、最も有力なのは野党のカプリレスだ

2013年1月7日(月)15時54分
シメオン・テゲル

弔い選挙へ? 後継者を選ぶ大統領選では、チャべスを根強く支持する貧困層がカギを握りそう Carlos Garcia Rawlins-Reuters

 ベネズエラのチャベス大統領は12月半ば、癌が発覚してからの1年半で4度目となる手術をキューバで受けた。そんななか、母国では既に後継者レースが熱を帯びつつある。

 マドゥロ副大統領は前日に行われた手術について、「複雑で細心の注意を要する難しいものだった。術後の経過も厳しいだろう」と率直に話した。それでも、1月10日に始まる6年間の任期を全うできない可能性もあると示唆する、チャベス自身の手術直前のコメントよりは楽観的なものだった。

 チャベスは万が一、自分が職務に復帰できない場合は、元バス運転手で労働組合幹部も務めたマドゥロに投票するよう国民に呼び掛けている。チャベスにとっては、自分に強い忠誠を誓う政治的後継者だ。

 ベネズエラでは大統領が就任後4年以内に死亡するか職務不能となった場合、30日以内に大統領選が行われる。ここで注目の的になるのは、12年10月の大統領選でチャベスに敗れた野党のエンリケ・カプリレスだろう。

 彼はチャベスの後継指名について、「ここはキューバでも、君主制の国でもない。選挙で選ばれた人間が辞任する場合、後継者を最終的に決めるのは国民だ」と語った。

 カプリレスの鼻息が荒くなるのも無理はない。先の大統領選では、チャベスの55%に対して44%の票を獲得。大きな差に思えるかもしれないが、これは98年にチャベスが初めて大統領に選ばれて以来、どの対立候補より圧倒的に高い得票率だった。

与党内にも造反組?

 ただし、ボリバル革命を行ったチャベスの支持率は、貧困層を中心に依然として高い。弔い選挙になってしまえば、反チャベス派が国民の感情の波にのみ込まれてしまう可能性もある。

 一方、与党のベネズエラ統一社会党(PSUV)内でも、大統領の後継者が自動的に選ばれるようなことは許されないとするカプリレスの警告に同調する動きが出ているようだ。一部の古参議員は、チャベスのマドゥロへの後継者指名を面白く思っていないとの話も聞かれる。

 ベネズエラ議会のディオスダド・カベジョ議長も、こうしたなかで後継候補として名前が挙がる1人だ。しかし彼は現職として臨み、全国的な注目を集めた08年のミランダ州知事選でカプリレスに敗れた過去を持つ。
左派系の国内紙タルカリは「13年に大統領選が行われる場合、再び反体制的な動きが巻き起こる可能性は否定できない」とするコラムを掲載した。

 貧困層のチャベスへの愛が勝つのか、進歩と変化を求める勢力がカプリレスに勝利をもたらすのか。情勢はいまだ混沌としている。しかしチャベスの病状がさらに進んだとき、国民に問われるのは感情論ではなく、ボリバル革命をチャベスより長生きさせるかどうかの判断だ。

From GlobalPost.com特約

[2012年12月26日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

G20財務相会議が閉幕、議長総括で戦争や貿易摩擦巡

ビジネス

経済・物価見通しの確度上がれば、それに応じ政策調整

ワールド

米ロ外相が近日中に協議へ、首脳会談の準備で=ロシア

ワールド

トランプ氏、プーチン氏とブダペストで会談へ ウクラ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口減少を補うか
  • 2
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 3
    間取り図に「謎の空間」...封印されたスペースの正体は?
  • 4
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 5
    【クイズ】サッカー男子日本代表...FIFAランキングの…
  • 6
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 7
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 8
    疲れたとき「心身ともにゆっくり休む」は逆効果?...…
  • 9
    ホワイトカラーの62%が「ブルーカラーに転職」を検討…
  • 10
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇…
  • 1
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 4
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 5
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 6
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中