最新記事

中東和平

停戦交渉を仲介したエジプトの綱渡り

イスラエルとハマスを何とか停戦に導いたものの、停戦はすぐに破られエジプトはまた忙しくなる、の繰り返しだろう

2012年11月22日(木)13時53分
アレクサンダー・ベサント

重責 エジプトを訪問したクリントン米国務長官と停戦の可能性を探るモルシ大統領 Egyptian Presidency-Reuters

 パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム原理主義組織ハマスとイスラエルは21日、停戦に合意した。仲介役のエジプトの苦労は並大抵のものではなかったはずだ。何しろ合意直前まで、イスラエルのテルアビブではハマスがバス爆破テロを起こし、イスラエルも猛攻撃を仕掛ける有り様だった。

 そもそも停戦の約束は何の慰めにもならない。過去10年以上にわたり、イスラエルもハマスも数えきれないぐらい停戦を踏みにじってきた。

 ここ数年のエジプトの仲介実績はひいき目に見てもムラがあり、停戦から一気に手の付けられない報復攻撃合戦に発展することもしばしばだった。

 特に05年にイスラエルがガザから撤退してから、ハマスもイスラエルも直接交渉を拒否したため、停戦交渉は一段と難しくなり、間を取り持つことができるのはエジプトだけになってしまった。

 エジプトは、パレスチナ人とイスラエル人の仲介役として長い歴史をもつ。とくに00年代初め以降、交戦の主舞台がヨルダン川西岸からエジプトと国境を接するガザに移ったことから、ハマスとのパイプも太いエジプトが調停役をヨルダンから引き継いだ。

停戦に合意していない勢力も

 もちろんエジプトにも、ハマスと、ハマスの設立母体であるエジプトのムスリム同胞団の関係を監視できるというメリットがあった。

 最近では、ハマスはシナイ半島を拠点にする反エジプト政府の過激派ともつながりを強めており、エジプトとしてはますますハマスから目が離せない状況だ。

 イスラエル国境に近いエジプト領シナイ半島で暴力行為が増えていることも、エジプトがイスラエルとハマスの間の安定を維持したい理由だ。

 イスラエルのテルアビブを拠点に地政学的な危機コンサルティングを行うMAXセキュリティ・ソリューションズの諜報部門長、ダニエル・ニスマンは、「エジプトは、ガザ地区南部を拠点にするイスラム聖戦士を取り締まれる強いハマスを必要としている」と言う。「彼らはシナイ半島での暴力行為と深い関わりがある」

 だが先週の混乱で、仲介の役割がいかに困難かが改めて明らかになった。

 ただ政治的な展望は、ここ1年で大きく変わってきている。ムバラク独裁体制が崩壊した後のエジプトを統治しているのは、元反政府勢力でハマスに賛同するムスリム同胞団だ。

 専門家らによれば、ムハンマド・モルシ大統領は綱渡りの状態にある。調停役としてのエジプトの役割を引き受けるだけでなく、断固として反イスラエルを貫くエジプト人の民意にも配慮しなければならないからだ。

 ひとまず停戦が成ったとはいえ、ガザのすべての武装勢力が合意に参加しているわけではなく、イスラエルへの砲撃は続く可能性も指摘されている。今回もまた、エジプトの努力が水泡に帰す可能性は否定できない。

From GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

香港の高層複合住宅で大規模火災、13人死亡 逃げ遅

ビジネス

中国万科の社債急落、政府が債務再編検討を指示と報道

ワールド

ウクライナ和平近いとの判断は時期尚早=ロシア大統領

ビジネス

ドル建て業務展開のユーロ圏銀行、バッファー積み増し
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 4
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 5
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 9
    放置されていた、恐竜の「ゲロ」の化石...そこに眠っ…
  • 10
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 10
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中