最新記事

公共放送

トラブル続きのBBCその深過ぎる病根

質の高いドキュメンタリーや教養番組で知られるBBCを見舞う信じ難い醜聞の数々

2012年11月30日(金)16時12分
トム・フェントン

公共性はどこへ? 世界最高の報道機関との呼び声も高いが国内番組の凋落はひどい Olivia Harris-Reuters

 往年の名物司会者による性犯罪とその隠蔽疑惑、さらにその騒動が収まらないうちに起きた大誤報──BBC(英国放送協会)が相次ぐトラブルに見舞われている。

 一連の騒動の幕引きを図る形でジョージ・エントウィッスル会長が辞任したが、BBCの問題はもっと深いところにある。

 最大の病巣は、イギリス国内向けのチャンネルだ。まるでアメリカの娯楽情報番組を見ているのかと錯覚するほど、センセーショナルなニュースであふれている(BBCワールドなどの国際放送は今も輝かしいレベルを維持している)。

 行方不明になった少女の話題を何日も(時には何週間も)興味本位に取り上げたかと思えば、有名人のゴシップに大騒ぎ。視聴率や広告収入を得るのに必死な民放チャンネルのように、安っぽい演出のニュースのオンパレードだ。

 BBCの経営は受信料で成り立っている。だから外国の国営放送局によく見られる政府の介入は拒否できるし、広告主の顔色をうかがう必要もない。

 BBCの抱える問題の多くは自ら招いたものだ。例えば経営のスリム化が叫ばれたとき、高給取りの経営陣や理事の数や報酬を減らすのではなく、現場の記者や番組の予算を大幅に削減した。そのツケがいま回ってきた。エントウィッスルを辞任に追い込んだ誤報がいい例だ。

 誤報を流したニュース解説番組『ニュースナイト』は今月初め、かつて児童施設にいた頃、ある政治家(名前は伏せられた)に性的いたずらを受けたとする男性の証言を紹介。後日この男性は「人違いだった」と証言を撤回。しかしそのときまでに、ネットで政治家の名前は特定されてしまっていた。

 このコーナーを制作したのは民間のプロダクションだった。おそらく経費削減の一環として外注され、その結果が粗悪なジャーナリズム、というわけだ。それがそのまま垂れ流されたということは、BBCという組織にチェック機能が欠如している証拠でもある。

 皮肉にも、BBC国内放送の「アメリカ化」が進む一方で、アメリカの3大ネットワークの一角、CBSのニュース部門では昔のBBCのような「堅いニュース」への回帰が進んでいる。経験豊かな特派員の数はまだ足りないが、現場の士気はこれまでになく上がっているという。

[2012年11月28日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:米政界の私的チャット流出、トランプ氏の言

ワールド

再送-カナダはヘビー級国家、オンタリオ州首相 ブル

ワールド

北朝鮮、非核化は「夢物語」と反発 中韓首脳会談控え

ビジネス

焦点:米中貿易休戦、海外投資家の中国投資を促す効果
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 7
    必要な証拠の95%を確保していたのに...中国のスパイ…
  • 8
    海に響き渡る轟音...「5000頭のアレ」が一斉に大移動…
  • 9
    【ロシア】本当に「時代遅れの兵器」か?「冷戦の亡…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中