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中国が「宇宙戦争」で米露を抜く日

宇宙開発で万年3位に甘んじてきた中国が、貧困そっちのけで狙う新たな覇権

2012年8月21日(火)14時46分
メリンダ・リウ(北京支局長)

五輪並み 中国初の女性宇宙飛行士、劉洋にメディアと国民は熱狂 Jason Lee-Reuters

 中国人民解放軍の劉洋(リウ・ヤン)少佐(33)は一躍、時の人になった。6月16日に中国初の女性宇宙飛行士として地球を飛び出したのだから当然だろう。彼女が訓練を始めたのはわずか2年前だが、今やメディアは北京オリンピック以来の熱心さで劉の動きを追っている。

「既婚で料理がうまい」「弁論大会で優勝したことがある」などといった劉のプロフィールに、中国の人々は興味津々。学校の英語の授業で級友の前に立つ彼女の映像はネット上を駆け巡っている。

 情報統制がまだ厳しかった03年に、中国初の有人宇宙船飛行士として楊利偉(ヤン・リーウェイ)が飛び立った時代を思えば隔世の感がある。劉らを乗せた宇宙船が発射されたゴビ砂漠の施設には国内外250以上のメディアが押し寄せた。

 宇宙計画の関係者は熱狂ぶりを歓迎しているようだ。劉は国民の希望の星としても「必要な人」なのだ。少し前まで中国の宇宙専門家に広報活動は無縁だった。だが今ではその閉鎖的な文化も変化を遂げた。

 宇宙開発競争で中国はここ数十年、3位に甘んじてきた。だが中国のかなり先を行っていた米ロ両国の宇宙開発は財政難や優先順位の変更で停滞。少なくとも国家主導の分野では中国がトップに立つ可能性が出てきた。

 NASA(米航空宇宙局)のスペースシャトル計画終了を尻目に、中国は20年をめどに有人宇宙ステーション建設計画を進めている。

 他方アメリカの宇宙開発では、スペースX社など民間企業の比重が増している。そのため、中国の指導者は国民に、宇宙開発への中央政府の莫大な支出を正当化する必要に迫られている。

 貧困問題を抱える中国では宇宙開発事業は金食い虫との批判がネットを中心に高まっている。「政府は金も犠牲も払い過ぎ」だと政府系シンクタンク中国文化研究所の劉軍寧(リウ・チュンニン)研究員は言う。

 それでも宇宙開発は国家の威信を高揚させ、技術力に注目が集まるとして支持する国民は多い。「支出に値する」と話すのは北京大軍経済観察研究センターの仲大軍(チョン・ターチュン)主任。「今やらなければ中国は将来、宇宙の支配権を失うことになる」

 来年には海南島にケネディ宇宙センターをモデルにした発射施設が完成する予定。「中国のハワイ」と言われる海南島が宇宙船打ち上げの見物客でにぎわう日も近いかもしれない。

[2012年7月 4日号掲載]

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