最新記事

ロシア

第2次プーチン時代に隠れた「死角」

2012年3月5日(月)16時52分
オーエン・マシューズ(モスクワ支局長)

被害妄想と挑発の外交

 国際政治の潜在的な火種という意味では、11年10月にプーチンが打ち出した「ユーラシア連合」構想を無視できない。ロシアと旧ソ連構成国のベラルーシ、カザフスタンの関税同盟を土台に、もっと踏み込んだ政治・経済統合を目指す構想である。

 プーチンは、91年のソ連崩壊を「20世紀最悪の地政学的惨事」と呼んだ人物だ。「ユーラシア連合」構想には、形を変えた帝国主義というイメージがどうしても付いて回る。

 最近、プーチンが反欧米的なレトリックを過激化させていることも大きな不安材料だ。「外国勢力の中には、わが国の選挙に影響を及ぼすために、ロシアの一部勢力に金を流している者もいる」と、プーチンは12月の下院選の前に政治集会で語った。「(外国勢力の)活動は徒労に終わる。(裏切り者の)ユダは、ロシアでは聖書の中で最も人気のある登場人物ではない」

 ソ連が西側に強烈な被害妄想を抱いていた時代を思い出させる発言だ。プーチンは、アメリカが世界経済で「(サッカーの)フーリガンさながらに(傍若無人に)振る舞って」いると述べたり、「寄生虫のように」身の丈以上の生活をしていると非難したりしたこともあった。

 メドベージェフ現大統領はバラク・オバマ米大統領と良好な関係を築くよう努力し、08年のロシア軍のグルジア侵攻で冷え込んだ米ロ関係を「リセット」しようとしてきた。プーチンの挑発的な言葉で、それが台無しになりかねない。

 最近、プーチンが首相として推し進めた最大の取り組みは、弱体化しているロシア軍の大幅増強だ。11年に作成した3カ年の予算計画によると、国防、警察、治安機関の予算は、現時点で政府予算の27%だが、14年には40%まで引き上げられる。

 太平洋艦隊の強化にもかなりの予算がつぎ込まれる。中国、アメリカと肩を並べる太平洋の大国という地位を築きたいという思惑があるのだ。

 プーチンの計画によれば、最近改修したカムチャツカ半島のビリュチンスク潜水艦基地に、新型ボレイ級原子力潜水艦「ユーリー・ドルゴルーキー」と「アレクサンドル・ネフスキー」を配備する。この2隻の原子力潜水艦には、多弾頭搭載型の新型潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)「ブラバ」を積む。

 冷戦時代に活躍した原子力巡洋艦「アドミラル・ナヒモフ」とミサイル巡洋艦「マーシャル・ウスチノフ」に修繕を施して装備を近代化した上で、極東のウラジオストクに再配備することも決まっている。

 北方四島を含む千島列島への戦車、攻撃ヘリ、対艦ミサイル、対空ミサイルなどの新型兵器の配備も進めている。10年11月には、北方四島の1つである国後島をメドベージェフが訪問し、日本政府の反発を買った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

「今後の首脳外交の基礎固めになった」と高市首相、一

ワールド

アングル:米政界の私的チャット流出、トランプ氏の言

ワールド

再送-カナダはヘビー級国家、オンタリオ州首相 ブル

ワールド

北朝鮮、非核化は「夢物語」と反発 中韓首脳会談控え
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 7
    海に響き渡る轟音...「5000頭のアレ」が一斉に大移動…
  • 8
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 9
    必要な証拠の95%を確保していたのに...中国のスパイ…
  • 10
    【ロシア】本当に「時代遅れの兵器」か?「冷戦の亡…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 10
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中