最新記事

中東

既に武器供与? 世界で強まるアサド包囲網

国際社会でアサド政権への批判が強まるなか、反体制派へ武器供与もささやかれているが、支援国の間で温度差も

2012年2月27日(月)17時07分
プリヤンカ・ボガニ

温度差 ヘイグ英外相(左)とクリントン米国務長官はシリア反体制派への支持を表明したが、武器供与をめぐっては異なる姿勢を示している(1月31日、国連安保理) Mike Segar-Reuters

 シリアでは、反体制派を武力で弾圧するアサド政権の横暴が勢いを増す一方。そんななか国際社会では、反体制派への支持が高まっている。

 イギリスのウィリアム・ヘイグ外相は先週、チュニジアの首都チュニスで開かれたシリア反体制派の支援国会合に出席。その場で、イギリスはシリア最大の反体制派組織「シリア国民評議会」をシリアの正式な代表として承認すると発表した。

 この発表に際してシリア国民評議会は、支援各国が反体制派に武器を供与できるようにすべきだとの考えを示した。

 サウジアラビアのサウド・アル・ファイサル外相はヒラリー・クリントン米国務長官との会談で、反体制派への武器供与は「最高のアイデアだ」と語った。反体制派は自力で身を守る必要があるからだ、という。

 今回の支援国会合で、アサド政権に対する圧力を強めるよう誰よりも強く求めたのがサウドだ。彼はシリア政府による武力弾圧の停止やアサドの退陣、被害の激しい地域への支援などを訴えた。

ハマスからも見放されたアサド政権

 シリア国民評議会の幹部バッスマ・コドマニによれば、支援国の中には既に反体制派に通信技術や防弾チョッキ、暗視ゴーグルを提供している国もあるという。

 だが、欧米の政府関係者は武器供与の事実を否定。ある外交当局者は、まだ武器供与をめぐる議論さえスタートしていないのに、その前に武器提供を始めるなんてあり得ないと言う。

 ヘイグは、イギリスは武器供与を検討していないと明言。「EUはシリアに対して武器の禁輸措置を取っている。イギリスもこの措置にあらゆる面で従う」と強調した。

 しかし、アメリカはイギリスとは異なる姿勢を示している。クリントンはチュニスでの会合の前日、「シリアの反体制派はいずれ自らを防御する手段を手にして、攻勢に出る」と発言。武器を供与する可能性を示唆した。

 国際社会の足並みが乱れるなか、シリアの状況は悪化の一途をたどっている。反政府デモが始まって以来、1年近い間に7000人以上が犠牲になったとの情報もある。先週木曜だけでも、90人以上が死亡したと報道された。

 アサド政権は長年の盟友であるパレスチナの過激派ハマスの支持さえ失い、イスラム教スンニ派が支配するアラブ諸国の中で孤立を深めている。

 ハマスの指導者イスマイル・ハニヤはエジプトの首都カイロで行われた集会でこう語った。「私はアラブの春を起こしたすべての国に敬意を表する。自由と民主主義、改革を求めて闘うシリアの勇者たちにも敬意を表する」

 追い詰められたアサド政権が、さらなる暴挙に出なければいいが。

GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:欧州への不法移民20%減少、対策強化でも

ワールド

米ロ首脳、ウクライナ停戦合意至らす トランプ氏「非

ワールド

トランプ氏「今すぐ検討必要ない」、中国への2次関税

ワールド

プーチン氏との会談は「10点満点」、トランプ大統領
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 5
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 6
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 7
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 8
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 9
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 10
    【クイズ】次のうち、「軍事力ランキング」で世界ト…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた「復讐の技術」とは
  • 4
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 5
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 6
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 7
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 8
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 9
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 10
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失…
  • 6
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中