最新記事

インターネット

国連がネットのビッグブラザーになる日

中国やロシアの後押しで、国際レベルでのネット検閲条約が可決されるかもしれない

2012年2月22日(水)15時05分
ボブ・ブーン

監視の目 国連で話し合われる新たな「ネット統治」体制は、すべてが監視下に…… Jason Reed-Reuters

 オンライン海賊行為防止法(SOPA)をめぐる米議会との戦いはひとまずネット業界の勝利に終わったが、これが序幕に過ぎないことは明らかだ。国境を越えた言論空間であり商空間でもあるインターネットをどう管理するかという「インターネット統治」問題は、いずれ何らかの決着を見なければならない。

 国連では、来週から国際レベルでのネット規制に関する新しい条約について話し合いを行う予定だ。特に中国やロシアは国際的に厳しいネット規制が敷かれることを望んでいると、米連邦通信委員会のロバート・マクドウェルはウォールストリート・ジャーナル紙に書いている。

 国際的なネット規制が導入された場合、経済的・技術的な制約を受けていないからこそ繁栄しているネットの世界が「ひっくり返る」と、マクドウェルは指摘する。ブラジルやインドなどの国も今回の規制案に「強い関心をもっている」が、ネット世界に規制を導入すれば、インターネットの「分断」を招くと警告する。

 インターネットは、言論規制や検閲のない国々では自由な意見やアイデアを共有する場として発展してきた。だが今回の構想はこれまで規制のなかったネット世界に国境が生まれることを意味する。

 今回の条約を積極的に支持するロシアのウラジーミル・プーチン首相は、「国際的なインターネットの管理」を構築する必要があると主張している。

 この国連の条約で提案されている条項のいくつかは、ネットユーザーにも大手ネット企業にも、ジョージ・オーウェルの小説『1984』に登場する支配者「ビッグ・ブラザー」を想起させる。例えば......。

■サイバーセキュリティーと情報のプライバシーを国際レベルで管理する。

■国営通信会社や政府に、海外からのアクセスに対して通信料金を課すことを認める。

■通信事業者が構築し、インターネットを支えている国際的IPネットワークを経済的に規制する。

 条約は2月27日からスイスのジュネーブで話し合われる予定だ。国連安全保障理事会とは違い、国連国際電気通信連合(ITU)の加盟国には条約や決議に対する拒否権利がなく、条約の成否は単純な多数決で決まる。アメリカはまだ条項について交渉するための代表者を任命していない。

 ネット上の活動家たちが、この「国際版SOPA」とも言える条約に反撃の狼煙を上げるのはまちがいない。

GlobalPost.com特約)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ビットコイン再び9万ドル割れ、一時6.1%安 強ま

ワールド

プーチン氏、2日にウィットコフ米特使とモスクワで会

ビジネス

英住宅ローン承認件数、10月は予想上回る 消費者向

ビジネス

米テスラ、ノルウェーの年間自動車販売台数記録を更新
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業界を様変わりさせたのは生成AIブームの大波
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    メーガン妃の写真が「ダイアナ妃のコスプレ」だと批…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    「世界で最も平等な国」ノルウェーを支える「富裕税…
  • 7
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯…
  • 8
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 9
    中国の「かんしゃく外交」に日本は屈するな──冷静に…
  • 10
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 4
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 5
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中