最新記事

チベット

中国当局「チベット人大量拘束」の理由

ダライ・ラマ14世の宗教行事から帰国したチベット人を中国政府が数百人規模で拘束したと、人権擁護団体が報告。中国が警戒を高める「Xデー」とは

2012年2月20日(月)16時22分
プリヤンカ・ボガニ

束の間の希望 今年初めにダライ・ラマ14世がインドで宗教行事を開いた際には、中国当局の締め付けが緩和したように見えたが(1月1日) Jitendra Prakash-Reuters

 中国当局がチベット人を数百人規模で一斉拘束した----先週、米人権擁護団体ヒューマン・ライツ・ウォッチが衝撃的な報告を行った。

 同団体に寄せられた情報によれば、拘束されたのはチベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世がインドで開いた宗教行事に参加した中国在住のチベット人。帰国後に拘束され、現在は中国当局による政治的な「再教育」プログラムを受けているという。

 中国政府がこれほど大規模にチベット人を拘束するのは70年代末以降初めてだろうと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは言及している。

 中国政府外交部の劉為民(リウ・ウェイミン)報道官は定例記者会見で、チベット自治区での焼身自殺や社会不安は中国国外の組織が招いたという従来の見方を繰り返したものの、チベット人の拘束については一言も触れなかったという。

 インド東部のビハールでは、12月31日〜1月10日にダライ・ラマ14世による宗教行事が開かれた。この時、中国当局はチベット人約7000人にネパールやインドへの渡航を許可し、チベット人への締め付けが緩和される兆しとみられていたが、最近になってチベット人居住地域で暴動や焼身自殺が相次いだため、締め付け強化へと逆戻りしたようだ。

チベット自治区に大量の治安部隊を配備

 ヒューマン・ライツ・ウォッチによれば、今回のような拘束の期間は20日〜3カ月とみられる。「この手の集会への出席を禁じる規制はない。再教育を受けさせられているチベット人たちは、文書偽造や不法入国などの犯罪で告発されているわけでもない」と報告書は記している。

 一方、同じ宗教行事の参加者でも中国人は拘束されなかったとも指摘。とはいえ、帰国時にダライ・ラマに関する宗教的なものを所持していた者は、所持品を差し押さえられて拘束されたという未確認情報もあるという。

 チベット暦の新年となる2月22日には、チベット人自治区周辺で再び暴動が起きる可能性がある。中国政府はそれを見越して封じ込めにかかった----チベット亡命政府のロブサン・サンゲイ首相は先週、AP通信にそうした見方を示した。

 サンゲイは22日だけでなく、チベット蜂起の記念日である3月10日にもチベット人による暴動が起きるだろうと指摘。3月10日と言えば、1959年に中国軍の侵攻に対してチベット人がチベット自治区の中心都市ラサで大規模な抗議行動を起こした日だ。中国当局は既にチベット自治区に大量の治安部隊を送り込んでいる。

GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏の核施設破壊発言、「レッドライン越え」=

ビジネス

NY外為市場=ドルまちまち、対円では24年12月以

ビジネス

米国株式市場=S&P500ほぼ横ばい、月間では23

ワールド

日本と関税巡り「率直かつ建設的」に協議=米財務省
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岐路に立つアメリカ経済
特集:岐路に立つアメリカ経済
2025年6月 3日号(5/27発売)

関税で「メイド・イン・アメリカ」復活を図るトランプ。アメリカの製造業と投資、雇用はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プーチンに、米共和党幹部やMAGA派にも対ロ強硬論が台頭
  • 3
    イーロン・マスクがトランプ政権を離脱...「正直に言ってがっかりした」
  • 4
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が…
  • 5
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 6
    【クイズ】生活に欠かせない「アルミニウム」...世界…
  • 7
    「これは拷問」「クマ用の回転寿司」...ローラーコー…
  • 8
    ワニにかまれた直後、警官に射殺された男性...現場と…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多…
  • 10
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」時代の厳しすぎる現実
  • 3
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多い国はどこ?
  • 4
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 5
    アメリカよりもヨーロッパ...「氷の島」グリーンラン…
  • 6
    デンゼル・ワシントンを激怒させたカメラマンの「非…
  • 7
    「ディズニーパーク内に住みたい」の夢が叶う?...「…
  • 8
    友達と疎遠になったあなたへ...見直したい「大人の友…
  • 9
    ヘビがネコに襲い掛かり「嚙みついた瞬間」を撮影...…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 6
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 9
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 10
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中