最新記事

中国政治

文革を語った温家宝の狙い

政治改革なしに経済改革はないが持論の改革派首相が中国政治のタブーを破った

2011年12月21日(水)15時53分
メリンダ・リウ(北京支局長)

党内で力なく 紅衛兵に迫害された祖父や父親の苦しみを語った温 Reuters

 中国の温家宝(ウエン・チアパオ)首相が先月末、母校である天津の南開中学でつらい過去を語った。病気になった自分のために父親が時計を質に入れて薬代を工面したこと、身動きできないほど小さな部屋で家族5人が暮らしたこと......。

 そして話が文化大革命のくだりに差し掛かると会場は静まり返った。「家族は迫害され続けた」──温は教育者だった祖父と父親が紅衛兵に苦しめられたことを初めて明かした。

 これまで文化大革命について口にした中国指導者はほとんどいない。それは政治的タブーだった。温はタブーを破ることで、未来の指導者たちに過去の過ちを繰り返すなと暗に示したのだろう。

 小学校の教師だった温の祖父は死ぬまで「自己批判」を強要された。「祖父の学校にはまだ書類が残っている。小さく整った字で書かれた自己批判書が」

 文化大革命を語ることがタブーとされるのは、毛沢東の悪いイメージが助長されるからだ。今年8月、習近平(シー・チンピン)国家副主席は訪中したバイデン米副大統領に、文化大革命で家族が苦しんだことを語ったという。しかし会談で習の言葉は完全には通訳されなかった。

 今回の温の発言で重要なのは、それが公式の場だったことに加え、中国の一部メディアがそのまま活字にしたことだ。

 改革派の温がタブーを破ったのは当然の成り行きだったのかもしれない。温はこの1年、中国共産党による「過度なコントロール」は緩めるべきだと警告。「政治改革なしに経済改革はない」とも発言している。
 
 文化大革命時代に触れたのも、指導層が一新される来年を目前に、党内の強硬派を牽制したのだろう。任期が切れる前に自分の姿勢をより明確にしておきたがっているようだ。

 温の発言がたびたび検閲され国民に伝えられないことに同情する者もいる。温は昨年、CNNに「言論の自由は発展する国家に不可欠だ。中国は発展し続けるし、民主主義を求める国民の思いは止まらない」と語ったが、国営メディアは無視した。だがこの発言はネットで広がり、あるネチズンは「首相にさえ言論の自由がない」と嘆いた。

 その改革精神から国民の間での人気が高く、親しみを込めて「温じいさん」と呼ばれるほどの人物だが、残念ながら保守派が支配する党内では大きな力を持てないでいる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

全米で反トランプ集会 移民政策やイラン戦争に抗議 

ワールド

米国防総省、イランで数週間にわたる地上作戦を準備=

ワールド

日曜●アングル:トランプ氏製造業政策の「光と影」、

ワールド

再送フーシ派がイスラエル攻撃、イエメンの親イラン武
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:BTS再始動
特集:BTS再始動
2026年3月31日号(3/24発売)

3年9カ月の空白を経て完全体でカムバック。世界が注目する「BTS2.0」の幕開け

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度を決める重要な要素とは?
  • 2
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 3
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?...「単なるホラー作品とは違う」「あの大作も顔負け」
  • 4
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 5
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 6
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反…
  • 7
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 8
    ヒドラのように生き延びる...イランを支配する「革命…
  • 9
    ウィリアム皇太子が軍服姿で部隊訪問...「前線任務」…
  • 10
    「酷すぎる...」ショッピングモールのゴミ箱で「まさ…
  • 1
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ海峡封鎖と資源価格高騰が業績を押し上げ
  • 2
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 3
    レストラン店内で配膳ロボットが「制御不能」に...店員も「なすすべなし」の暴走モード
  • 4
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」…
  • 5
    中国の公衆衛生レベルはアメリカ並み...「ほぼ国民皆…
  • 6
    イランは空爆により核・ミサイル製造能力を「喪失」…
  • 7
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 8
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終…
  • 9
    【クイズ】2年連続で「世界幸福度ランキング」で最下…
  • 10
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 6
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中