最新記事

少子化

ロシアを阻む人口減少の罠

旧ソ連圏諸国を糾合して超大国の復活を期すプーチンの野望の前に立ちはだかる人口急減の厳しい現実

2011年12月16日(金)13時59分
フレッド・ウィア

もっともっと プーチンがいくら奨励しても、現在のロシアの出生率は人口維持できる水準に遠く及ばない RIA Novosti-Reuters

 ロシアのウラジーミル・プーチン首相が、自国の壮大な未来ビジョンを描いてみせた。実現すれば世界の経済・軍事バランスが一変しかねない。

 旧ソ連圏の諸国を糾合して「ユーラシア連合」を結成し、「現代世界の一極となり、かつまたヨーロッパとアジア太平洋地域の効果的な懸け橋となり得る強力な超国家的連合」に仕立てようというのだ。

 だが、その夢の前には大いなる「不都合な真実」が立ちはだかっている。ロシアの人口が急激に減少しつつあり、今世紀半ば頃には兵士も労働者も足りなくなりそう、という現実だ。そんな状況は、まさしく国家存亡の危機。中国に対抗して超大国としての地位を取り戻すのは至難の業と言うしかない。

 かつてのソ連は、中国との約4200キロにわたる国境沿いに新しい都市を築き、工場を建ててきた。独裁国家ゆえの強引さで、そうした辺境にロシア民族を送り込み、住まわせた。ロシア人が住む土地ならば主権を主張しやすかったからだ。

 だがソ連崩壊後の20年でシベリアや極東に住むロシア民族の数は20%近く減少。若くて有能な人たちは、みんな成功の機会を求めて首都モスクワへ出て行った。

 しかも、出生率はもう何十年も右肩下がりの状態にある。昨年の出生率は1.4人と、人口の維持に必要とされる2.1人に遠く及ばなかった。一方、過去20年で25〜45歳の男性の死亡率は急激に上昇し、新生児の数を上回る水準にある。結果、今のロシアは人口減と高齢化の二重苦に見舞われている。

 ソ連崩壊の直後、ロシアの人口は1億5000万人弱だった。しかし米国勢調査局によれば、今では1億3900万人弱。25年頃には1億2800万人に、50年頃には1億900万人にまで減る見通しだ。

「ロシアの場合、出生率はヨーロッパ並みに低く、死亡率はアフリカ並みに高い」と、地域開発研究所(モスクワ)所長ユーリ・クルプノフは言う。「何しろ労働年齢の男性の死亡率はヨーロッパの5倍で、これがロシアの経済発展を阻害している」

過度な飲酒による早死に

 若い男性の死亡率が異常に高いのは、ソ連崩壊後にさまざまな悪条件が重なったせいだ。環境汚染はひどくなり、医療制度は崩壊し、インフラの老朽化で事故が増え、社会不安ゆえの暴力も増えた。

 しかし09年に国際的な医学誌ランセットに載った報告によれば、最大の原因はソ連崩壊後にアルコール依存症が急増したことらしい。もともと大酒飲みのロシア人の基準からしても過剰なアルコール摂取が原因で、毎年60万人が早死にしていると推定されている。

「このままだとロシア人は死に絶えてしまう」と危惧するのは、現状を憂える市民団体「国境なき善行」の代表スベトラーナ・ボシェロワだ。「このままでは20年までに学校が空っぽになり、次の10年で労働者や兵士が足りなくなる。50年までには『国』と呼べないくらいの人口になってしまう」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル国民はイラン停戦に反対、尊重するかで世論

ワールド

英仏、ホルムズ海峡巡り今週会合開催 防衛的海上任務

ビジネス

基本原則は債務残高のGDP比引き下げ、債務の定義で

ワールド

イスラエルがガザ空爆、3人死亡 カイロでの協議中に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの大誤算
特集:トランプの大誤算
2026年4月14日号(4/ 7発売)

国民向け演説は「フェイク」の繰り返し。泥沼化するイラン攻撃の出口は見えない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】イラン情勢で「任天堂」が急落 不確実な相場で人気の優良株から売られる落とし穴
  • 2
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国防軍は崩壊寸前」
  • 3
    新しいアメリカンドリームは「国外移住」...5人に1人が海外を希望する時代
  • 4
    日本は「イノベーションのやり方」を忘れた...ホンダ…
  • 5
    健康を守るはずのサプリが癌細胞を助ける? 思いがけ…
  • 6
    中国がイラン戦争一時停戦の裏で大笑い...一時停戦に…
  • 7
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙…
  • 8
    「いい加減にして...」ケンダル・ジェンナーの「目の…
  • 9
    「仕事ができる人」になる、ただ1つの条件...「頑張…
  • 10
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 3
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収される...潜水艦の重要ルートで一体何をしていた?
  • 4
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで…
  • 5
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 6
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 7
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国…
  • 8
    撃墜された米国機から財布やID回収か、イラン側が拡…
  • 9
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 10
    中国がイラン戦争一時停戦の裏で大笑い...一時停戦に…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収され…
  • 7
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
  • 10
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中