最新記事

中東

エジプト「民主的選挙」の腐った現実

ムバラク政権崩壊後、初めての総選挙が迫っているが、闇市場では票の「バルク販売」が盛んに行われ、外国からの選挙監視団もシャットアウトされている

2011年11月21日(月)12時35分
ジョン・ジェンセン

真の民主化は? エジプトの選挙で躍進が見込まれるイスラム原理主義組織「ムスリム同砲団」の支持者たち(カイロ、11月16日) Mohamed Abd El-Ghany-Reuters

 ムバラク政権崩壊後、初めての人民議会選挙を11月28日に控えるエジプトでは、懸念すべき兆候が表れている。「自由で公正」な選挙の実施に期待が集まっていたが、実際にはムバラク時代の選挙体質が今も健在のようだ。

 首都カイロ北部郊外で中流層の多い選挙区から出馬するリベラル系候補のエイミー・ハムザウィは、ムバラク時代の「汚職システム」が残っていると語る。闇市場ではいまだに票の売買が盛んに行われ、どんな候補でもまとまった数の票を手に入れられる――ハムザウィは先週、地元紙にそう書いた。

 ハムザウィと同じ選挙区から初出馬する若手候補のマフムード・サレムは、こうした闇市場の存在を目の当たりにした。「最近は、数千単位で票を買わないかといった話が舞い込んでくるようになった。得票を操作してやるとか、誰かをボコボコにしてやろうかと持ち掛けてくる者もいる」と、サレムは明かす。彼は、不正に手を染めて当選するくらいなら出馬しないと語った。

警察官の不在で無法地帯化する恐れも

 軍最高評議会は民政移管の最初のステップとして、「自由で公正な」選挙を実施すると繰り返し約束してきた。しかし外国からの選挙監視団は、ほぼ完全にシャットアウトされている。エジプトの主権に対する侮辱だというのが軍最高評議会側の主張だが、国内の選挙監視グループに対しても、不正が発覚した際に介入する権限は事実上認めていないという。

 エジプトの選挙委員会が最終的な候補者リストを公表するのが遅れに遅れていることも、国民の不信感をあおっている。投票日が迫っているというのに、カイロの市民の多くはいまだに自分の選挙区から誰が立候補するのかさえ分からない状態だ。

「選挙を楽観していた国民でさえ、今回のやり方には驚いている」と、エジプトの人権派弁護士ネガド・エルボラは言う。

 さらに、治安も大きな懸念材料だ。1月の民主革命後に逃亡した警察官たちは、今もまだ戻っていない。先月には、全国で警察官1万人以上が賃金と社会保障の向上を求めてストライキを起こした。要求が満たされない場合は、投票所の警備を放棄すると脅す者もいた。

「今回の選挙でエジプトが直面する最大の問題は、安全性だ。このままでは危険な事態になりかねない」と、エジプト北部の都市タンタで判事を務めるアミール・アデル・ラムジーは言う。
 
GlobalPost.com特約)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

「トランプ口座」は株主経済の始まり、民間拠出拡大に

ビジネス

米11月ISM非製造業指数、52.6とほぼ横ばい 

ワールド

EU、ウクライナ支援で2案提示 ロ凍結資産活用もし

ワールド

トランプ政権、ニューオーリンズで不法移民取り締まり
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 2
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 3
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 6
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 7
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    トランプ王国テネシーに異変!? 下院補選で共和党が…
  • 10
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中