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「イラン核」報告書にイスラエルが動く

イランの核兵器開発が初めて国際的に認知された今、したたかなイスラエルは自らイランを攻撃するより世界を動かそうとしている

2011年11月9日(水)16時08分
ノガ・ターノポルスキー

世界の脅威 イランの中距離弾道ミサイル、シャハブ2(9月の軍事パレードで) Reuters

 待ち望まれていた国際原子力機関(IAEA)の報告書がついに発表された。イスラエル国内で、イランの核施設を軍事攻撃するとの議論が急浮上して間もなくのことだった。

 今回の報告書は、「イランは核兵器の製造を目指している」とするアメリカとイスラエルの長年にわたる主張を初めて支持した。しかし今のところイスラエル政府は報告書に関する発言を控えており、「ノーコメント」というコメントすら出していない。

 だがイスラエル政府関係者はオフレコで、報告書の断定的な論調は「イランに対して非常に厳しいもの」で、報告書が依拠している「信頼できる情報」を無視することは不可能だと語っている。特に重要な情報としてイスラエルのメディアが指摘するのは、核爆発のバーチャル実験を行うための専用プログラムをイランが以前から使っていた、というものだ。

壊滅的な制裁を加えるしかない

 複数の関係者によれば、報告書の発表を受けてイスラエルは、イランが「軍事利用が可能なウランを手に入れるのを防ぐ唯一の手段」として「壊滅的な制裁」を当然加えるべきだと考えている。一方でイスラエルのラジオ局は、政府がイランへの一方的措置を発表する予定はないと報じた。これはつまり、イランに対する「攻撃の先頭に立つ気はない」という意味だという。

 イスラエルの野党カディマのツィピ・リブニ党首は、「真実は明らかになった。イスラエルの役割は、イランの核開発計画続行を阻止するために自由世界を団結させることだ」という声明を発表。元国防相で、現在は議会の安全保障・外交委員会の委員長を務めるシャウル・モファズは次のように述べた。「どんな国も、イランの脅威と無関係ではない。これはイスラエルの問題ではなく世界の問題だ。われわれは試されている」

 IAEAの報告書が発表される数時間前、エフド・バラク外相は「イスラエルは中東で圧倒的な軍事力を誇っており、当面はそうあり続けるだろう」と語った。「戦争は簡単なことではない。首相と私がどこかの部屋で『冒険』について計画を立てているなどと言う人がいるが、そんなのは嘘だ」

 さらにこう続けた。「だが、もし望まぬ戦争が避けられなくなっても、イスラエルが破壊されることはない。5万人の死者が出ると言う人もいるが、ばかげている! 5000人ですらないし、皆が家にこもっていれば500人にもならない。不安をあおって政治利用しようとする完全なデマだ」

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