最新記事

最新研究

紛争を起こす真の元凶はエルニーニョ?

世界で発生した紛争の20%以上にエルニーニョが影響を及ぼしているとする新説が登場

2011年10月17日(月)14時28分
レイ・フィスマン

例外地域 エジプトなど中東・北アフリカの動乱はエルニーニョとは関係なさそうだが(カイロ、8月) Mohamed Abd El-Ghany-Reuters

 最初に問題を1つ。過去の偉大な文明が滅んだ原因は何か? 

 人類学者で作家のブライアン・フェイガンの説によれば、犯人は気候、特にエルニーニョだ。エルニーニョとは、太平洋東部の周期的な水温上昇が世界中の熱帯諸国に乾燥と高温をもたらす現象を指す。

 8月に科学誌ネイチャーで発表された論文によると、フェイガンの説にはある程度まで科学的根拠があるらしい。最長1年半にわたり熱波と干ばつをもたらすエルニーニョは、現代に入ってからも国家の富と安定に影響を与えてきたという。

 最先端の気象科学と20世紀後半に起きた紛争のデータを組み合わせた研究者の分析によると、エルニーニョは、世界各地で発生した紛争の20%以上の原因だった可能性がある。

 気象学者は今後100年間、エルニーニョ型の異常気象が増えると予測している。もしそうだとすれば、未来の地球は今よりも熱波と乾燥、そして暴力に悩まされることになりそうだ。

「エルニーニョ期」と紛争の発生率を比較

 高温と乾燥が紛争を引き起こす基本的なメカニズムは比較的単純だ。暑さと干ばつで食料が減れば、人々は飢え、反抗的になる。そして怒った民衆は武器を取って政府に反抗するか、乏しい資源をめぐって争い合うようになる。

 熱帯地方ではエルニーニョのせいで、異常気象が数年おきに訪れる。この点に目を付けた研究者たちは、気候状況の差が極めて大きい数年間を選び、国ごとに政情を比較した。

 論文を執筆したのは、数値モデルによるエルニーニョの予測に初めて成功した海洋学者のマーク・ケーンら。研究者たちはまず、太平洋の赤道海域の海面温度を基に「エルニーニョ期」を設定した。高温が一定期間続けばエルニーニョの始まり、海面温度が異常に低ければ、エルニーニョと反対に多湿化をもたらすラニーニャの始まりだ。

 次に、この気象データをスウェーデンとノルウェーの研究者がまとめた1950〜2004年の武力紛争のデータと照合し、エルニーニョ期とラニーニャ期における紛争の発生率を比較した(この研究では紛争の開始の定義を、「政府と組織化された反体制派の間で抗争が始まり、その年に25人以上が死亡したケース」としている)。

飢饉の前に食料を配れ

 その結果、エルニーニョによる気温変動の影響を受ける地域では、エルニーニョ期の紛争発生リスクがラニーニャ期の2倍に上ることが分かった。エルニーニョは4〜7年の周期で比較的頻繁に発生する現象で、世界人口の半分が影響を受ける(中南米、南・東南アジアの大半と、サハラ以南のアフリカ全域)。

 エルニーニョは近年に世界で発生した紛争の最大21%に関わっていると、この研究は示唆している。比較のため、エルニーニョの影響を受けない中東・北アフリカ、アジア北部を調べたところ、エルニーニョ期とラニーニャ期の紛争発生リスクに差はなかった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米4月雇用17.5万人増、予想以上に鈍化 失業率3

ビジネス

為替円安、行き過ぎた動きには「ならすこと必要」=鈴

ワールド

中国、月の裏側へ無人探査機 土壌など回収へ世界初の

ビジネス

ドル152円割れ、4月の米雇用統計が市場予想下回る
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前の適切な習慣」とは?

  • 4

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 5

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 6

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    映画『オッペンハイマー』考察:核をもたらしたのち…

  • 9

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中