最新記事

中東

シリア独裁政権は経済的にも崩壊寸前

抗議デモ続きで国内経済の安定を維持できないアサド政権に、中流以上の国民やビジネスマンがそっぽを向く?

2011年7月22日(金)16時36分
ヒュー・マクラウド、アナソフィア・フラマンド

噴出する怒り アサド政権打倒を訴える若者(今月7日、ヨルダンのシリア大使館前で開かれたデモ集会で) Muhammad Hamed-Reuters

 日々エスカレートする反政府デモは、5万人の治安部隊を動員しても抑えられない。西部のハマやホムスといった都市でも反乱がほぼ公然化している――。レバノンに拠点を置く米カーネギー国際平和財団中東センターのポール・サーレム所長は、シリア情勢について「もはや後戻りできないところまで来ている」と分析。「(反政府運動による)経済的打撃でシリアは崩壊に近づいている」と、結論付けている。

「最新の調査によると、商業活動と貿易は半分に減り、失業率は2倍に達し、食料と電気の不足はますます深刻化している。すでに200億ドルが国外に流出し、銀行は取り付け騒ぎを恐れ、政府はすざまじい勢いで通貨シリア・ポンドを増発。シリア・ポンドが急速に下落する危険を招いている」。その結果、大都市の企業家や中流層が経済を安定させられない現政権に見切りを付けることになるだろう、とサーレムは見ている。

 サーレムによれば、シリアは大規模な政治改革と政治的融和を受け入れるか、内戦に陥るか、という2つの道のどちらかを進む。どちらにしても、シリアの人口の4分の3を占めるスンニ派が権力を握ることになる。これまで半世紀近く政治を独占してきたシーア派の一派で少数派のアラウィー派は政権を奪われる。

 いずれにせよ、避けがたい権力構造の変化によって、アサド政権がイラン、そしてイランが支援するレバノンのシーア派武装勢力ヒズボラと築いてきた親密な関係は失われる。

アサド政権の「緩慢な自殺」

 シリアの首都ダマスカスに上級アナリストを常駐させているシンクタンクの国際危機グループ(ICG)は最近、シリアの反政府運動に関する2つの報告書をまとめた。

 報告書の中でICGはアサド政権について、反政府運動を「外国から支援を受けたイスラム教徒による陰謀」と誤解し、危機回避に使えたはずの「さまざまな資源」を浪費したうえ、「アラウィー派の生き残り」のために反政府運動の制圧を治安部隊の暴力に依存したことによって、「結果的に自分の首を絞めている」と評している。またもう1つの報告書では、アサド政権がなんとしても政権を維持しようと必死になることは「緩慢な自殺」にすぎないとも指摘している。

 世界的な2つの人権団体も、シリアの治安部隊が人道に対する罪を犯していると糾弾。アサド政権は国際刑事裁判所(ICC)に告発されるべきだと主張している。

 国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)は、南部国境沿いの都市ダルアーの留置所で残酷な拷問が行われたり、けがをした抗議デモ参加者が治療を受けるのを治安部隊が妨害している、と告発している。HRWは人権侵害の内容や規模が「組織的なだけでなく国家の政策として実行されている。人道に対する罪に値する」と指摘している。人権擁護団体アムネスティ・インターナショナルも、西部の都市テル・カラクで治安部隊が同様の人権侵害を行っているという報告書を出している。

 アサド政権はまさに四面楚歌の状態に陥っている。その「崩壊」はそれほど遠くないかもしれない。

GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ゼレンスキー氏「米国の和平案推し進める用意」、 欧

ビジネス

米CB消費者信頼感、11月は88.7に低下 雇用や

ワールド

ウクライナ首都に無人機・ミサイル攻撃、7人死亡 エ

ビジネス

米ベスト・バイ、通期予想を上方修正 年末商戦堅調で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    放置されていた、恐竜の「ゲロ」の化石...そこに眠っ…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    使っていたら変更を! 「使用頻度の高いパスワード」…
  • 10
    トランプの脅威から祖国を守るため、「環境派」の顔…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 10
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 8
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中