最新記事

ハンガリー

「メタボ食品税」で肥満にペナルティ

塩分、砂糖、脂肪分を多く含む食品に課税するハンガリーの試みは、健康増進と医療費削減の一石二鳥?

2011年6月23日(木)17時04分
フィル・カイン

食卓革命 新たな税負担がハンガリー人の食習慣を劇的に変える? Laszlo Balogh-Reuters

 ハンガリーでは今、世界で最も包括的な「メタボ食品税」を導入する動きが進んでいる。

 狙いは、国民の食習慣を改善し、医療費を抑制すること。塩分、砂糖、脂肪を「過剰」に含んだ食品に10フォリント(約4.3円)の税金を課し、アルコールやソフトドリンクの税率を10%引き上げる計画だという。推定300億フォリント(約130億円)に上る税収は、1000億フォリント(約430億円)の赤字をかかえる国営の医療システムに回される。

 ハンガリーは東欧でも有数の財政赤字国だ。深刻な財政赤字を解消するために、イギリスは厳しい緊縮財政政策を敷き、ギリシャやアイルランドもEU(欧州連合)とIMF(国際通貨基金)の救済を受ける条件として緊縮財政を強いられている。

食品業界は「差別的」と反発するが

 だが、ハンガリーは他の欧州諸国とはまったく違うアプローチで赤字削減に取り組もうとしている。メタボ食品税は「この夏に議会に提案され、ほぼ確実に簡単に可決されるだろう」と、ハンガリー医療機関戦略的同盟の会長で、法案の立案者であるガボー・チバは言う。

「ハンガリー政府は非常に強硬なので、議会での採決の行方をある程度コントロールできる」と、ハンガリー心臓協会のアンドラス・ナギー会長も言う。メタボ食品税法案は2012年1月1日に発効する予定だ。

 ハンガリーでは昨年4月の総選挙で中道右派のフィデス・ハンガリー市民連盟が圧勝し、3分の2以上の議席を獲得。それ以降、同党が提案するさまざまな政策が論争を巻き起こしている。昨年10月には、外資系の小売りチェーンと通信会社、エネルギー関連企業を対象に、経済再建の資金に当てる「危機税」を導入。今年1月にはメディアの自由を束縛する新法が国際社会の怒りを買った。

 メタボ食品税の導入が決まれば、食品業界は激しく反発するだろう。欧州の食品・飲料関連のロビー団体CIAAに言わせれば、特定の食品を狙い撃ちし、低所得者層に負担が集中するメタボ食品税は「差別的」な政策だ。CIAAはさらに、税の徴収に手間がかかり、経済的な負担が大きいうえに、国民の食生活が改善する証拠もないと主張している(デンマークでは1922年以降、飴に課税しているが、肥満率は上昇している)。

 フィデス・ハンガリー市民連盟は民族主義的な政党だが、ガチョウの油のフライのようなハンガリー人の好物に対しても特別扱いはなさそうだ。「追加課税の対象である塩、砂糖、脂肪が、ガチョウの油のフライにはたっぷり入っている」と、チバは言う(ピザやハンバーガーのようにトッピングの種類によって脂肪分などの量が変わる食品にどう課税するかという問題は残る)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

インドGDP、7─9月期は前年同期比8.2%増 予

ワールド

今年の台湾GDP、15年ぶりの高成長に AI需要急

ビジネス

伊第3四半期GDP改定値、0.1%増に上方修正 輸

ビジネス

独失業者数、11月は前月比1000人増 予想下回る
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 3
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    「攻めの一着すぎ?」 国歌パフォーマンスの「強めコ…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 5
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 6
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 7
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 10
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中