最新記事

アジア

中国は大国ぶった「隠れ小国」

「敵」を見ればその国の大きさがわかる。一人の芸術家や「ジャスミン」という検索語にも脅える中国が大国のはずはない

2011年4月8日(金)17時53分
デービッド・ロスコフ(カーネギー国際平和財団客員研究員)

小心者 中国共産党が言論封じに躍起なのは人々の不満爆発を恐れるからこそ(天安門広場) David Gray-Reuters

 国力を測る方法はたくさんあるが、どれも非常に不完全なものと言っていい。GDP(国内総生産)という概念を考案した米商務省の担当者らは、本当の意味での経済の健全性をみる指標として使うべきではない、とくぎを刺した。GDPはかなり限定的なものだし、そこに含まれていない多くの要素があるからだ。

 防衛支出だけで、ある国の軍事力を測るのも不十分。軍事力を考える上では、それを行使する政治的意思といった他の要素が極めて重要になってくるからだ。天然資源はあるに越したことはない。しかし資源があるがゆえに、それ以外の分野の開発がなおざりになれば資源は「災いの元」になりかねない。教育が行き届き、雇用が確保され、国民と政府が目標を共有していれば、人口の多さは素晴らしい原動力になり得る。しかし実際はそういうケースばかりではない。

 ただし、国家の本当の強さを知るのにふさわしい指標が一つある。その国が恐れる「敵」だ。真の大国はささいな脅威などものともしない。自らを過小評価し、取るに足りない脅威を大げさに扱うのでは大国と言えない。

ナチス・ドイツやソ連と同じ弱さ

 アメリカを見ればよくわかる。組織化されておらず、能力は限定的で、地政学的な影響力のほとんどない数百もしくは数千の過激なテロリストに対抗すべく、アメリカは安全保障制度を根本から作り直した。これは過剰反応だったし、結果的にアメリカ人の価値観をねじ曲げ、国際的な立場を傷付けた――だがたとえそうであっても、ダライ・ラマのような老人や法輪功のような宗教団体、インターネットの検索キーワードにさえ怯える中国に比べれば、そんなアメリカの行動でさえまだ理にかなって崇高に感じられるほどだ。

 そういう意味で中国は、表面的には「大国」であったナチス・ドイツやソ連と同じだ。彼らは軍備を増強し、国際舞台で尊大な態度を取る一方で、根本的な弱さを隠し切れなかった。強い国家や国民なら、弱い者を恐れるあまりにその人物を悪者扱いし、意見を表明することを禁じたり投獄したりはしない。

 だが中国では、そうしたことがまたもや起きている。中東に吹いた「ジャスミン革命」の風がかすかに届いただけで、中国政府は「デモ」「抗議」といった言葉に非常に敏感になり、ネット上では「ジャスミン」という言葉まで検閲。反政府デモの動きが出たところで政府は警察を動員し、反体制派を拘束した。

 中国当局によって逮捕・拘束された人々の中に、現代アーティストの艾未来(アイ・ウェイウェイ)がいる。世界最大の人口を抱え、世界第2位の経済力を持ち、世界第2位の軍事支出を誇るこの国は艾を恐れているらしい。陶製の「ひまわりの種」を敷き詰めたインスタレーションをテート・ギャラリー(ロンドン)に展示中の艾は多作な芸術家であり、ブログやツイッターで積極的に情報発信する表現者でもある。08年の北京五輪ではメインスタジアム「鳥の巣」の設計に携わったが、中国政府にとっては目障りな存在になっていた。

 しかし彼は単なる芸術家だ。ノーベル平和賞を受賞した服役中の民主活動家、劉暁波(リウ・シアオボー)と同じように、1人の人間に過ぎない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

赤沢再生相、ラトニック米商務長官と3日と5日に電話

ワールド

OPECプラス有志国、増産拡大 8月54.8万バレ

ワールド

OPECプラス有志国、8月増産拡大を検討へ 日量5

ワールド

トランプ氏、ウクライナ防衛に「パトリオットミサイル
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚人コーチ」が説く、正しい筋肉の鍛え方とは?【スクワット編】
  • 4
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 5
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「詐欺だ」「環境への配慮に欠ける」メーガン妃ブラ…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 10
    反省の色なし...ライブ中に女性客が乱入、演奏中止に…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 5
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 9
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中