最新記事

観光

泥酔の旅はイタリアへ

格安のパブ巡りツアーで欧米からやってくる若い団体客が歌う、わめく、路上で吐くなどの醜態で永遠の都は様変わり

2010年10月15日(金)15時37分
シルビア・マルケッティ

外国人だけではない ローマ市内の広場で堂々と酒を飲むイタリアのティーンエージャーたち(04年)Marco Di Lauro/Getty Images

 ローマの観光名所コロッセオ(円形闘技場)に程近い、居心地のいいアイルランド風パブ「コークスイン」は、2年前から「パブ巡りツアー客お断り」の姿勢を打ち出している。「若い観光客がなだれ込み、10分で飲めるだけ飲むと次の店に向かう。わめくわ歌うわ、路上で吐くわ。売り上げのためだけに目をつぶるのは、私のモラルに反する」と、経営者は話す。

 おいしい料理とロマンチックなナイトライフの代名詞だったローマも、今や酒飲みの観光地に成り果ててしまった。イギリスやアイルランド流のパブ巡りツアーの波が、永遠の都の広場や街中にも押し寄せてきたのだ。ドイツ人やアメリカ人、スウェーデン人、イギリス人など最大で150人もの団体(16歳未満の未成年者も多い)が、イタリア人ガイドに案内されて夜の街をうろつく。

 1人20ユーロ(約2140円)のツアー料金で、彼らは安くておしゃれなバーを巡る。ツアーを主催するのはほとんどがローマ在住の外国人で(主にロシアと東ヨーロッパの出身者)、彼らに雇われた地元の若者が観光名所で旅行者を勧誘する。

「最高に楽しい」と、ノルウェーから来た19歳のリンダは言う。「お酒はどこよりも安いし、さらに観光までできるんだから」

 だが、お祭り騒ぎがいつも楽しく終わるとは限らない。昨夏、20歳のオーストラリア人がテキーラで深酔いした揚げ句、橋でふざけてテベレ川に転落し、死亡した。

 ローマはここ数年で様変わりした。夜になると、一部の史跡はビール瓶やガラスの破片、使い捨てのコップが転がる野外トイレと化す。若者はローマ橋やルネサンス期の遺跡に群がって酒を飲み、大麻を吸い、夜更けまでたむろする。

 1600年に哲学者のジョルダーノ・ブルーノが火あぶりの刑に処せられたカンポ・デ・フィオーリ広場は、2つの顔を持つ。昼間は青空市が開かれ、果物や焼きたてパンの香りが漂う。夜になると、ブルーノ像の周辺ではビールと吐瀉物の臭いが鼻を突く。

「以前のローマはこんなふうじゃなかった」と、56歳のローサ・ディジャンニはこぼす。「今じゃ明け方4時に、酔っぱらった若者のわめき声で目が覚める」

広場を飲酒禁止区域に

 イタリアの若者の間でも飲酒問題は深刻化している。保健当局の最近の報告によると、11〜24歳の青少年150万人が頻繁に過度の飲酒をしているという。

 イタリアでは、16歳未満のパブでの飲酒は法律で禁止されている(小売店では購入できる)。加えて、多くの都市がより厳しい独自の規制を導入。ローマ市長ジャンニ・アレマノは、特定の広場を飲酒禁止区域にし、夜間の市民パトロールを実施すると決めた。市当局者は「懲罰目的ではなく、治安悪化を防ぐのが狙いだ」と話す。

 だが、警察の目も市内全域には届かない。「違法と知りつつ子供にアルコール類を出す店もある」と、18歳のジャコモは証言する。

 一方で、酔った若者を家に送り届ける「安全ドライバー」が常駐する良心的な店もある。

 ミラノは他の都市に先駆けて条例を導入。16歳未満にアルコール類を販売した場合、店にも客にも450ユーロの罰金が科される。条例制定のきっかけは、ミラノの中心地ベトラ広場で昨夏、ウオツカをがぶ飲みしている14歳の少女が補導されたことだ。少女はふらついて倒れ、手にしていたウオツカの瓶を割ったが、それでも飲み続けようとしてガラスで唇を切った。

「たった1人でも若者の命を救えるなら、条例導入の意義がある」と、同市のレティツィア・モラッティ市長は言う。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

情報BOX:米国の対イラン攻撃は合法か

ワールド

アングル:イラン、ドローン増産もミサイル不足か 海

ワールド

湾岸海運危機が深刻化、5日連続でタンカー足止め

ワールド

中東諸国の日本人約1.1万人、国外退避含め保護に万
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで続くのか
  • 2
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られる」衝撃映像にネット騒然
  • 3
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 4
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 5
    「外国人が増え、犯罪は減った」という現実もあるの…
  • 6
    「イランはどこ?」2000人のアメリカ人が指差した場…
  • 7
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 8
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 9
    核合意寸前、米国がイラン攻撃に踏み切った理由
  • 10
    戦術は進化しても戦局が動かない地獄──ロシア・ウク…
  • 1
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 2
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 3
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 4
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 5
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 6
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの…
  • 7
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 8
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 9
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 10
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中