最新記事

アフガニスタン

援助職員の死が教えるアフガンの危険度

非武装で活動する多くの外国人メディアや援助ワーカーが命がけの日々を送っている

2010年10月12日(火)18時06分
ジーン・マッケンジー(カブール)

重過ぎる教訓 リンダ・ノーグローブの死はアフガニスタン在住の外国人に衝撃を与えた Reuters

 歯磨き粉、タオル、ブルカ、防弾チョッキ──。私は荷物リストを厳しく点検した。今回の行き先は、不安定な情勢が続くアフガニスタン南部。大量の装備が必要だが、荷物が重すぎて数歩しか歩けない。結局、防弾チョッキは置いていくことにした。

 アフガニスタンで取材活動をしている私は通常、軍に同行せず、個人で動くか、民間の交通手段を利用している。行動の自由を確保でき、地元住民と接触しやすいので記事を書くのに便利だし、カブール駐在の外国人が集まる夜の社交場で自慢話のネタにもなる。

 だが先月、アフガニスタン東部のクナル州でイギリス人女性リンダ・ノーグローブがタリバンとみられる反政府勢力に拉致されると、アフガニスタン在住の外国人コミュニティの緊張が一気に高まった。そして10月8日、救出作戦中に彼女が死亡すると、緊張は衝撃に変わった。リンダはここの「常連」で、私たちの多くがさまざまな場で彼女と顔を合わせていたのだから。

(編集部注:イギリスのデービッド・キャメロン首相は11日に、ノーグローブの死因は米軍が投げた手榴弾だった可能性があると語っている)。

 私たちの多くと同じく、リンダも非武装の車両で目立たないように行動していた。同行したのは運転手2人とボディーガード1人だけで、リンダはブルカで変装していたとされる。

 彼女が所属していた途上国支援のコンサルティング企業DAIは、民間警備会社エジンバラ・インターナショナル(EI)と大型契約を結んでいた。ナガルハール州ジャララバッドからクナル州アサダバッドに続く国内有数の危険な経路を通るのに、リンダはなぜEIの装備や警備員を利用しなかったのだろう。その理由は明らかではないが、彼女自身の選択だった可能性はある。

ブルカを着た途端まるで犬扱い

   私も、どうしても移動しなければならない状況を何度も経験した。2005年12月、クリスマスをアメリカで過ごす予定だった私は、フライトの前日にカンダハルで足止めを食らった。カブール行きの国連の飛行機がキャンセルされてしまったのだ。

 追い詰められた私は分別を失い、もう1日カンダハルに留まってフライトを手配し直す代わりに、タクシーでカブールの自宅に向かうと言い張った。今ほどではないが当時も治安はかなり悪く、タリバン兵が路上をうろつき、国際機関の車両や政府関係者を狙った爆発テロが仕組まれていた。

「護衛役」として私に同行したのは、憐れなアフガニスタン人の同僚アジズだけ。アジズは誰かに頼んで市場で私に初めてのブルカを調達してくれたが、帽子が小さすぎて目を覆うはずのメッシュ部分がおでこに引っかかってしまった。何も見えず、息をするのも大変で、ブルカのせいで人格のない奴隷になったように感じた。

 ブルカの影響力が最も顕著に表れたのは、アジズの態度だった。私と彼は長年共に仕事をしてきた友人であり同僚だったが、私が青いナイロンのブルカを身にまとった途端、彼はまるで犬を相手にしているかのように私に命令しはじめた。

「後部座席に座って、何もしゃべるな」と、彼は吐き捨てるように言った。「手を隠せ。そんな白い手が見えていたら、お前が俺の母親だなんて言えるわけがないだろう」

 幸い、冬だったので、足には靴下を履いていた。私は家に着くまでずっと、ブルカの中に注意深く手を隠していた。

 カンダハルからカブールへ向かうハイウェイを走る6時間の間に、タリバンや警察、通行料をせしめたい民間の検問サービスまで多くの検問所で何度もストップさせられた。誰かが後部座席を覗き込むたびに、アジズは自分の身内だから起こすな、と怒鳴り声を上げた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米大統領、兵器提供でモスクワ攻撃可能かゼレンスキー

ビジネス

世界の投資家心理が急回復、2月以来の強気水準=Bo

ワールド

中豪首脳会談、習氏「さらなる関係発展促進」 懸念が

ビジネス

中国GDP、第2四半期は5.2%増に鈍化 底堅さも
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機」に襲撃されたキーウ、大爆発の瞬間を捉えた「衝撃映像」
  • 2
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中にまさかの居眠り...その姿がばっちり撮られた大物セレブとは?
  • 3
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 4
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 5
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 6
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 7
    【クイズ】次のうち、生物学的に「本当に存在する」…
  • 8
    「このお菓子、子どもに本当に大丈夫?」──食品添加…
  • 9
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 10
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 9
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 10
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中