最新記事

アジア

インド初の英連邦競技大会が中止の危機

10月3日の開幕を前に、会場近くに建設中の橋が崩落。選手村は汚く、テロの恐れもあって、各国の選手が相次いで不参加を表明

2010年9月27日(月)15時12分
ジェーソン・オーバードーフ(ニューデリー)

大失態 メイン会場近くでは橋の崩落事故が発生(9月21日、ニューデリー) Adnan Abidi-Reuters

 今のインドを表すのに最もふさわしい言葉は「不名誉」だ。イギリス連邦の54の国・地域が集うコモンウェルス・ゲームズ(英連邦競技大会)は、初のインド開催となる今回が過去最大かつ最も素晴らしい大会になるはずだった。

 だが10月3日の開幕を前に、イングランドやスコットランド、ウェールズが不参加をにおわせ、大会の開催自体が危ぶまれる事態に陥っている。選手の不参加表明も相次ぎ、カナダは選手の出発日を延期した。

 原因は大会会場や選手村など施設の整備の遅れやテロの恐れ、伝染病の蔓延など。大会組織委員会のスレシュ・カルマディ委員長はメディアからの批判への対応に躍起だが、問題は改善されていない。

 9月19日には首都ニューデリーで台湾人観光客2人が銃撃される事件が発生。21日には競技場近くで建設中だった歩行者用の橋が崩落して27人が負傷、うち3人が重態となった。さらに施設の天井の一部が雨で崩落したり、選手村の衛生環境の悪さが露呈するなど問題が続出している。

 まだ成熟していない新興国インドにとっては、大会の中止こそが最良の道かもしれない。インドの致命的な欠点は、中国のように自信過剰なことではなく、何事にも無関心なことだ。計り知れない可能性を持ちながら、政治的には無気力なインドの中流層に行動を起こさせるには、まずこの不名誉を受け入れさせる必要がある。

清掃スタッフ1000人を追加

 高まる批判を受けてシン首相は22日、選手村の本格的な清掃のために追加スタッフ1000人を派遣。さらにデリー首都圏の首相シーラ・ディクシットは、大会の失敗を懸念する声をこう一蹴した。「心配する理由はない。これをチャンスと考えるべきだ。どうか前向きになってほしい」

 しかし、インド政府が失態を演じたことは明らかだ。うわべだけでも順調さをアピールすることも、口うるさい新聞を黙らせることも、貧困層やホームレスを田舎に移動させることもできなかった。

 インドが学ぶべきは、貧困や病気やごみがあふれる中に金持ち向けの清潔で現代的な地区を造っても無意味だということだ。貧しい人の生活が向上してこそ、富裕層の生活も向上する。それに、労働者への尊敬がなければ、彼らがまじめに働くことはない。

GlobalPost.com特約)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、チェイニー元副大統領の追悼式に招待され

ビジネス

クックFRB理事、資産価格急落リスクを指摘 連鎖悪

ビジネス

米クリーブランド連銀総裁、インフレ高止まりに注視 

ワールド

ウクライナ、米国の和平案を受領 トランプ氏と近く協
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 6
    幻の古代都市「7つの峡谷の町」...草原の遺跡から見…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    【クイズ】中国からの融資を「最も多く」受けている…
  • 9
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中