最新記事

仏社会

フランスのブルカ禁止には大賛成

2010年7月28日(水)18時52分
ジャン・レッシュー(フランス人ジャーナリスト)

 フランスのブルカ禁止法案は、その幼稚な擁護者の一部が主張しているような「治安上の」理由に適っているとは言えない。彼らは、黒い布で顔を覆った銀行強盗や爆弾をガウンの下に忍ばせた自爆テロ犯を引き合いに出しているが、別にブルカでなくてもこうした犯罪はできるということだ。

 さらに反対派も支持派も主張する通り、フランス社会の「イスラム化」を止めてくれるからいい法律だ、というわけでもない。過去の植民地支配への罪悪感のせいで、フランス社会が長い間受け入れられずにきたイスラム文化の浸透を、多くの人はむしろ歓迎している。さらに、ニコラ・サルコジ仏大統領が最近持ち出した「フランス人とは何か?」「国民のアイデンティティーを定義しよう」という議論は、移民やイスラム教徒排斥につながるという反発も呼んでいる。

 しかしよほどのイスラム過激派を除き、フランス社会がイスラム教化することを望む人などいない。もしもブルカ着用を認めるか禁止するかによってフランス社会の寛容性や文化の多様性を判断されるのだとしたら、我々の自由社会はどうなってしまうのだろう。

フランスは反イスラムではない

 米国務省報道官やホワイトハウス、そして多くのアメリカ人には驚きかもしれないが、フランスは決して反イスラム国家ではない。国中のいたるところにモスクが(イスラム礼拝所)があり、その多くは公費で建設されている。

「カトリック教会の長女」とも表現されるフランスはもちろん、反宗教的な国でもない。バレリー・ジスカールデスタン元大統領は起草者の1人として関わった最新のEU(欧州連合)条約の序文で、「キリスト教の伝統」に言及しようとしたほどだ。彼のアイデアはほぼ全加盟国から拒絶された。政治条約はあらゆる人のものであるのに対し、宗教は個人的なものだからだ。

 だがフランスがどんなに宗教的な国家であろうと関係ない。ブルカの問題は宗教問題とは言えないからだ。「ブルカは宗教的なものではない」と、サルコジは言った。「女性の服従の象徴だ」

 私が住む場所として選ぶような社会では、公共の場でのブルカ着用を許すことは社会生活のルールを侵すことになるだろう。自由な社会では、人は隣人を愛したり、憎んだり、無視したりできる。ただそのためには非常にシンプルなあることが必要だ。そう、彼もしくは彼女の顔を見ることができることだ。

GlobalPost.com特約)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

FBI長官解任報道、トランプ氏が否定 「素晴らしい

ビジネス

企業向けサービス価格10月は+2.7%、日中関係悪

ビジネス

アックマン氏、新ファンドとヘッジファンド運営会社を

ワールド

欧州議会、17億ドルのEU防衛産業向け投資計画を承
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    放置されていた、恐竜の「ゲロ」の化石...そこに眠っ…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    使っていたら変更を! 「使用頻度の高いパスワード」…
  • 10
    トランプの脅威から祖国を守るため、「環境派」の顔…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 10
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 8
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中