最新記事

中国政府

ウイグルと世界を欺く中国の悪知恵

08年のチベット騒乱では情報遮断を批判されたが、今回のウイグル騒乱では巧妙なPR作戦を展開中

2010年7月5日(月)12時10分
メアリー・へノック(ウルムチ)

 中国の新疆ウイグル自治区で7月5日に起きた騒乱は、昨年3月のチベット騒乱後では同国最悪の民族衝突に発展した。

 正確さの疑わしい政府発表でも、10日までの死者は184人でチベット動乱の死者数(22人)を大きく上回っている。200台のバスや乗用車が燃やされ、200軒以上の店舗が焼け落ちた。当局は2万人以上の武装警察を区都ウルムチに投入し、胡錦濤(フー・チンタオ)国家主席はG8(主要8カ国)サミットへの出席を取りやめてイタリアから帰国した。

 何より注目すべきは、中国政府としてはおそらく初めて冷静沈着なPR活動を展開していることだ。共産党指導部は、チベット動乱が世界における中国のイメージを大きく傷つけたこと、そして今回の暴動も同じような影響をもたらし得ることを分かっていた。

 そこで取り締まりの開始と同時に政府側の状況説明を発表。暴動の起きた市中心部に外国人ジャーナリストを案内する「バスツアー」まで開催した。中国当局者が腕の立つ情報操作の専門家に突然変身したかのようだ。

外国メディアに現地ツアー

 昔は政府にとって不都合な事件が起きたら、情報を遮断すればよかった。だがインターネットと携帯電話が普及した現在では完全な遮断は不可能だ。それなら情報操作の方法を学ぶしかない。

 当局は今回、情報遮断と情報操作という2つの戦略を採用し、新旧メディアに対して駆使した。まず暴動が起きた5日にインターネットと携帯電話の接続を遮断。その一方で活字メディアやテレビに対して、当局側が選んだ写真や情報を提供した。

 チベット騒乱のときは住民が外界と連絡を取ることが一応可能だった(ただし恐怖のため多くを語らない人が多かった)。今回情報統制が厳しいのは、新疆がチベットよりも経済的に発展しており、政府の不安が大きいせいだと、カリフォルニア大学バークレー校ジャーナリズム大学院の蕭強(シアオ・チアン)教授は言う。「ウルムチではインターネットが広く普及している。情報を管理するには遮断するしかない」

 ただし新疆では、外国人ジャーナリストが暴動の起きた地域に立ち入ることができた。チベットでは当局が報道陣の行動を制限して世界中から批判的に報道された。その経験から学んだのだろう。

 最初の衝突が起きた翌日、政府の対外広報担当部門である国務院新聞弁公室は、ウルムチに「新疆新聞弁公室」を開設。さらに外国人ジャーナリストを暴動発生地域や病院に案内し、政府側が受けたダメージを強調した。

 外国人ジャーナリストには関連写真や映像の収められたCDも配られた。「(政府は)外国人ジャーナリストを禁止するのではなく、高度な広報資料を使って操作しようとしている」と蕭は語る。

 だが外国の報道陣がいると、チベットのときのようにカメラの前でわざと勇敢な行動に取る人も現れる。市場にいた約200人の女性が、拘束された親類男性らの釈放を求めて道にあふれ出した。政府はそんなシナリオにない出来事を報じられたくなかったはずだ。

 政府はチベットでの経験を生かし、最も重要な観衆すなわち国民に対する情報発信も操作した。暴動参加者は政治的に不満を抱く少数民族ではなく単なる暴徒だというイメージを、国営メディアを通してつくり上げるのだ。

 まず騒乱をあおったのは在外組織(今回の場合「世界ウイグル会議」)であり、事件は地元の2大民族(ウイグル族と漢族)の衝突だと強調する。治安部隊によって死者が出たことには触れない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ブリヂストン、今期純利益見通しは3.9%増の340

ワールド

米銀行規制当局、大手行向け新「バーゼル」規制案に前

ワールド

米、小型原子炉を貨物機で初めて輸送 原子力の迅速展

ビジネス

ディズニー、バイトダンスに停止通告書 AI生成動画
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワートレーニング」が失速する理由
  • 2
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」でソフトウェア株総崩れの中、投資マネーの新潮流は?
  • 3
    「目のやり場に困る...」アカデミー会場を席巻したスーツドレスの「開放的すぎる」着こなしとは?
  • 4
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 5
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 8
    それで街を歩いて大丈夫? 米モデル、「目のやり場に…
  • 9
    世界市場3.8兆円、日本アニメは転換点へ――成長を支え…
  • 10
    フロリダのディズニーを敬遠する動きが拡大、なぜ? …
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 5
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
  • 6
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 7
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」で…
  • 8
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 9
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 10
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワ…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中