最新記事

米外交

イランを変えられないオバマのスロー制裁

国連安保理の対イラン追加制裁に続いてアメリカも新たな制裁措置を発表したが、イランに痛手を与えるほどの効果はない

2010年6月18日(金)16時59分
マイケル・ハーシュ(ワシントン支局)

あくまで強気 イランは追加制裁も相手にしていない(訪米中のアハマディネジャド大統領、5月4日) Shannon Stapleton-Reuters

 悪党に襲われそうになって逃げ場がない状態なら、相手の腕や足を1カ所ずつ攻めていくだろうか? まず片足を狙い、それから腕、もう片方の足という具合に。それともどんな手を使ってでも、一発で倒そうとするだろうか?

 アメリカ政府はイランに対して、どうも前者の作戦を取っているようだ。アメリカが、イランはテロを支援する最大の国家であり、その核開発計画のためにアメリカの安全保障にとって深刻な脅威になっていると考えていることはひとまず置いておこう。イランのアハマディネジャド政権がますます軍事独裁政権化していたり、イラン国民の間で同政権の正当性を疑う声が強くなっていることも。またこの1年間、「関与政策」を目指すバラク・オバマ米大統領が「アメ」ばかりで「ムチ」を見せなかったことを、イランが嘲るように無視していることも、だ。オバマ政権は金融その他の分野への「ボディブロー」を信じていないようで、イランに対する扱いから判断すれば、むしろ「嫌がらせ」を好んでいるに思える。

 6月16日、米財務省はイランの金融会社や海運産業、イラン革命防衛隊(IRGC)の「事業体や個人」を標的にした最新の制裁を発表した。イランの核開発問題をめぐり、国連安全保障理事会が新たな制裁を盛り込んだ第1929号決議を採択してから1週間後のことだ。06年から制裁問題を担当するスチュアート・レビー財務次官は、テロリストに資金援助したり、武器拡散に関わっているとしてイランの銀行をブラックリストに入れることで、イランへの圧力を徐々に強化している。新たな制裁によって「イランの選択肢は徐々に明らかになるだろう」と、レビーは主張した。つまり違法な武器開発計画を止めるか、止めずにその結果に苦しむかだ。

ロシアや中国を説得する意味はない?

 だが記者会見で、リビーはある質問を突きつけられた――なぜイランへの選択肢を「徐々に」ではなく、「すぐに」「間違いなく」明らかにしないのか? IRGCやムラー(イスラム教の宗教指導者)に頼る経済活動や、イラン軍や核開発と多種多様の関係がある経済活動に打撃を与えればいいのではないか? 

 レビーは、イラン・ポスト銀行を資産凍結などの制裁対象とする決定を記者に説明した(これで16の銀行が制裁指定になった)。07年1月、イランのミサイル産業に金融サービスを提供したとして国営のセパ銀行に制裁が発動された後、その国際取引の多くをポスト銀子が引き継いだ。そして今回、ポストバンクの役割を引き継ぐ銀行が現れるのを待つことになる。

 オバマ政権の「漸進主義」について聞かれると、レビーは特定の企業に対する「証拠」を明らかにし、国際的な「正当性」を保つ――つまり経済制裁に加わる主要国、特にロシア、中国、欧州諸国の同意を得る――必要性について語った。しかイランから真の変化を引き出すために制裁を利用しないなら、同意を取り付けるために何カ月も努力する必要があるだろうか?

茶番に見える対イラン制裁

 専門家やイラン人自身も、新しい制裁措置に漸進的な効果しかなければイランの国民世論を変えるのには不十分だと言い続けている。イランの元駐英大使モハマド・ホセイン・アデリは07年、私に対して次のように語っている。アメリカのイランに対する対立的なアプローチは「すでに30年続いているが、うまくいっていない。今だからうまくいくなんてことはない」。国連の制裁はビジネスをする上で必要なコストだとして、ほとんどのイラン人から軽くあしらわれている(一般的には6%ほど価格が高くなる)。

 イランのマフムード・アハマディネジャド大統領は、国連の新しい制裁採決に「イランは微塵の譲歩もしない」だろうと宣言した。そして、欧米諸国が「少し罰を受ける」まで話し合いは行わないとした。
 
 すべてが茶番に見えるのは気のせいだろうか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米12月小売売上高、前月比横ばい 個人消費の鈍化示

ビジネス

米雇用コスト、第4四半期は前年比3.4%上昇 4年

ビジネス

米輸入物価、25年12月は前月比0.1%上昇 前年

ビジネス

中国人民銀、内需拡大へ金融支援強化へ 過剰生産と消
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 2
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...周囲を気にしない「迷惑行為」が撮影される
  • 3
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トランプには追い風
  • 4
    崖が住居の目の前まで迫り、住宅が傾く...シチリア島…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    変わる「JBIC」...2つの「欧州ファンド」で、日本の…
  • 7
    衆院選で吹き荒れた「サナエ旋風」を海外有識者たち…
  • 8
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 9
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を…
  • 10
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 1
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 5
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 6
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 7
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 8
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 4
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 7
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 8
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 9
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
  • 10
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中