最新記事

国威

W杯のスポットライトも悲しい北朝鮮

韓国艦爆破事件やW杯出場で自由世界に引き出された異形の国に、虚実入り混じった噂が飛び交う 

2010年6月17日(木)16時53分
ラビ・ソマイヤ

お国はどちら? W杯で北朝鮮チームを応援するサポーターたち(6月15日ヨハネスブルク) Kim Kyung-Hoon-Reuters

 6月16日に行われたサッカーのワールドカップ(W杯)南アフリカ大会1次リーグの試合で、ブラジルと対戦した北朝鮮の応援団は中国人の「サクラ」だったらしい。

 国連では韓国の哨戒艦沈没事件への関与を問われ、W杯では奇妙な噂が一人歩きしている。北朝鮮は最近、あまりうれしくない形で世界のスポットライトを浴びている。

 北朝鮮はたぶん、世界で最も圧制的で閉鎖的な国だ。独裁者金正日(キム・ジョンイル)総書記の下、国民は食糧不足に苦しんでいる。また国民は、不法に捕らえられて強制収容所送りとなり、拷問を受ける危険と隣り合わせで暮らしている。

 ちなみに北朝鮮人権委員会(HRNK、本部ワシントン)の報告によれば、強制収容所で生まれた収容者の赤ん坊は無残に殺されてしまうという。

 なのに国民には北朝鮮こそが楽園で、外国は悪魔の住まう場所だと教え込んできたような国だ。

 それだけに、北朝鮮を代表する人々(やチーム)が自由世界に現れると世間の大きな注目を集める。

 韓国海軍の哨戒艦「天安」が爆発して46人が死亡したのは3月26日のこと。その後、国際調査団が北朝鮮製の魚雷の破片を発見し、攻撃の黒幕は北朝鮮政府だとの結論に達した。

「北韓」と呼ばれて監督激怒

 15日、北朝鮮の申善虎(シン・ソンホ)国連大使は記者会見を開くことを余儀なくされた。そして武力行使をちらつかせながら国連安保理が北朝鮮を非難する決議などを出さないよう牽制した。

「安保理が北朝鮮を非難したり疑うような文書を発表すれば、外交官としての私にもはや打つ手はない。だがわが国の軍隊が追加的措置を実行するだろう」と申は語ったとニューヨーク・タイムズ紙は伝えている。

 申は「わが国の国民と軍隊は侵略者を粉砕するだろう」と述べ、調査は「徹頭徹尾、完全なでっち上げ」だと切り捨てた。

 日本やアメリカなど安保理による決議に前向きな国の多くは隠された動機を持っている、とも彼は述べた。

 申は金日成の三男であるジョンウンが父の跡を継ぐ可能性や北朝鮮の核開発をめぐる質問、それにW杯で北朝鮮代表がどのくらい活躍すると思うかといった問いには答えようとしなかった。

 W杯の北朝鮮代表チームも同様にメディアから厳しい質問を浴びている。

 英ガーディアン紙によれば、開幕前の記者会見で「金正日が自ら選手の選抜を行うのか」と問われたキム・ジョンフン監督は冷ややかな沈黙で答えたという。

 また国名を「北韓」と呼ばれると、そんな国は存在しないと監督は激怒した。

作戦指示は見えない携帯で?

 その一方で在日3世の鄭大世(チョン・テセ)選手(彼自身は資本主義世界に育ち、愛車は大型SUVのハマーだ)は、ヨーロッパ遠征中に有料トイレに遭遇した際のチームメイトたちの困惑ぶりをブログに書いている。

 たしかに北朝鮮の人々の多くは、ワールドカップを現地で観戦することなど許されないだろう。そんなことをすれば外国に関する金正日の嘘が国民にバレてしまう。

 だからブラジル戦では中国の人々が応援に駆り出された。英デーリー・テレグラフ紙は中国人のサクラの数を約1000人だったと伝えている。

 固く閉ざされ抑圧された国が世界最大級のスポーツイベントに参加するとなれば、サッカーファンであれ評論家であれ、いったいどんな国かと好奇の目を向けるのは当たり前だ。

「監督は金正日から戦術的アドバイスを受けるために、裸眼では見えない特殊な携帯電話を携帯している」なんて噂まで広まっている。ちなみに見えない電話を開発したのは金正日本人なのだそうだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国不動産投資、1─7月は前年比12%減

ワールド

パナマ運河庁、競争入札視野に企業と協議へ 2港増設

ビジネス

金融政策手法は「日銀が判断」、米長官発言に言及せず

ビジネス

ベセント米財務長官、日本に利上げ求めていない=赤沢
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化してしまった女性「衝撃の写真」にSNS爆笑「伝説級の事故」
  • 4
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 5
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 6
    【クイズ】アメリカで最も「盗まれた車種」が判明...…
  • 7
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 8
    「デカすぎる」「手のひらの半分以上...」新居で妊婦…
  • 9
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 10
    【クイズ】次のうち、「軍用機の保有数」で世界トッ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた「復讐の技術」とは
  • 3
    職場のメンタル不調の9割を占める「適応障害」とは何か?...「うつ病」との関係から予防策まで
  • 4
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 5
    【クイズ】次のうち、「軍用機の保有数」で世界トッ…
  • 6
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 7
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 8
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 9
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 10
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失…
  • 5
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 6
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 9
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中