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タイ動乱「陰の主役」の真実

2010年5月19日(水)17時47分
ジョエル・シェクトマン(ジャーナリスト)

 タイ民主主義においてタクシンが重要なのは、貧困層に奉仕したことばかりが理由ではない。彼には政治家としての能力があった。76年に軍政が終了してから、4年の任期を最後まで務め上げた首相はタクシンが初めてだった。それ以外はみな、クーデターで転覆されるか辞任させられるか、連立を組むパートナーに見捨てられるかして新たに選挙を迫られた。

 王室の陰謀と軍隊の派閥が政治に影響力を持つタイにおいて、エリート層はタクシンのビジネスライクな手法を好まなかった。彼は中央政府のチェックなしに地方の決定権を握ることができる「CEO知事」を新設したが、形を変えた縁故主義にすぎないとレッテルを張られた。

バラマキでつくり出したチェック機能

 それでも数値目標を設定し、地方当局者に決定権を与えることで、タクシンはタイを経済危機から救うことに成功した。IMF(国際通貨基金)からの融資も予定より2年前倒しで返済した。

 もちろんタクシンは聖人ではない。反タクシン派が主張する彼の姿の大半は真実だろう。03年にタクシンが行った麻薬撲滅作戦(3カ月以内に麻薬取引を根こそぎにすると約束した)は、数千人の死者を出した。軍事攻撃によって南部のイスラム教徒の暴力は激化した。

 農村融資は単なる票集めの手段に過ぎなかったと批判派は口をそろえる。タクシン自身も融資が返済されることはないと分かっていたはずだと(実際、多くの国々で農業助成は行われているのだが)。

 だがタクシンにどんな欠陥があろうと、01年から06年にかけて彼が大衆の政治参加を実現し、タイ民主主義の最も輝ける瞬間を実現したのは間違いない。タクシンがエリート層を疎外しようと、一般大衆は彼が自分たちの味方だと考えていた。

 どんな国にも利害の対立する階級や派閥は存在する。明らかに現在の衝突は行き過ぎだ。だが農村の有権者を政治に参加させることで、タクシンは都市のエリート層の権力に対するチェック機能をつくり出した。

 タクシン政権は民主主義を実現したが国は分裂させた、というのは正しくない。分裂させたからこそ、民主主義的だったのだ。

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