最新記事

軍事技術

無人機「拡散」が生む脅威

無人機を作る技術が世界に拡散し始めた。これに大量破壊兵器を積んで飛ばせば、テロ組織も軍事大国並みの力をもつ

2010年4月22日(木)16時12分
ピーター・シンガー(米ブルッキングズ研究所)

 レバノンのイスラム教シーア派民兵組織ヒズボラは05年、無人偵察機をイスラエルの町の上空すれすれに飛ばした。この偵察機は騒音がひどく、原始的なカメラ以外に武器は積んでいなかったが、アメリカのアナリストはテロ組織による思わぬ行動に懸念を抱いた。無人機が好ましくない勢力の手に渡る兆候とみたからだ。

 この懸念は当たっていたようだ。今ではロシアやインド、パキスタンなど、少なくとも40数カ国が無人機の製造や購入、配備を開始。パリ航空ショーなど、世界中の兵器見本市では多数の国が自国の試作機や新型機を紹介している。

 過去半年間を見ても、イランは武器を搭載できる無人偵察機の生産を始め、中国はアメリカのプレデターとグローバル・ホークのライバルとなる無人機を発表した。10年の無人機に対する全世界の投資の3分の2は、アメリカ以外の国の資金で占められる見込みだ。

 それでも米政府当局者は、この点に触れたがらない。国土安全保障省で非核兵器の攻撃に対する防御を担当するジム・タトルは、無人機がアメリカへの攻撃に使用される可能性を問われると、「プレデターを手に入れるテロリストなどいない」と懸念を一蹴した。

 さらにウォールストリート・ジャーナル紙は先日、イラクの武装勢力がインターネットで購入した30謖のソフトウエアを使い、無人機が撮影した映像を盗み取ったが、米政府はこの技術的欠陥を無視したと報じた。

 こうした傲慢さはつまずきの原因になる。アメリカはかつて、自国の民間航空機を使ったテロ攻撃を予見できなかった。それと同様に、今は無人機という新技術がもたらす脅威を過小評価している。

アメリカの独壇場ではなくなった

 外国がロボット工学の分野で自国の脅威となり、テロ組織が自爆テロ志願者の代わりに無人の機械を使って殺傷能力の高い爆発物を運搬する──アメリカはそんな状況に備えなければならない。

 この種の技術は手頃な値段で簡単に入手できる。民間市場で買える技術も既に相当ある。つまり、いずれ無人機が好ましくない勢力の手に渡るのはほぼ確実だ。そうなれば小さなグループや個人が、かつての軍事大国に匹敵する力を持つことになる。

 そもそもテクノロジー、特に軍事技術の世界では、先行開発者の優位が永遠に続くことはない。イギリスは第一次大戦中に戦車を発明したが、20数年後に機甲部隊の電撃戦で戦車を巧みに活用したのはドイツだった。

 現時点では、アメリカはまだロボット工学革命の最先端にいる。この優位性は多大な努力と投資のたまものだ。アメリカは数10億謖を無人機の開発につぎ込み、火薬の発明以降で最大と言うべき軍事戦術・戦略・政策上の大転換を主導してきた。

 国防総省は今年、有人機よりも多くの無人機を購入し、爆撃機と戦闘機のパイロットの合計よりも多くの無人機オペレーターを育成する。デービッド・ペトレアス中央軍司令官は1月、「無人機がいくらあっても足りない」と言った。

 だがアメリカの「敵」は、自前の衛星とスーパーコンピューターのネットワークがなくても無人機のシステムを構築できる。

 現にハイテク雑誌ワイアードのクリス・アンダーソン編集長は、1000ドルで手投げ式の無人偵察機を作った。アリゾナ州の反移民グループは、2万5000ドルで無人機による監視システムをメキシコ国境に設置。77歳のカナダ人男性が製作した無人機は、ニューファンドランド島から大西洋を飛び越えてアイルランドに到達した。

軍事技術が開発されてから民間に普及するまでの時間差は、今や年ではなく月単位だ。世界中の大規模農家は既に無人機を農薬散布に利用している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

豪中銀、インフレ予想を上方修正 25年半ばまで利下

ワールド

ピュリツァー賞、ロイターが2部門受賞 公益部門は米

ワールド

中仏首脳、イラン核問題の「政治的解決」訴え=中国国

ワールド

豪23/24年度予算、総債務減少の見込み=財務省
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表...奇妙な姿の超希少カスザメを発見、100年ぶり研究再開

  • 2

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    メーガン妃を熱心に売り込むヘンリー王子の「マネー…

  • 7

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 8

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 9

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 10

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 5

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中