最新記事

インターネット

アフリカ発「サイバー大量破壊兵器」が世界を襲う

安全対策の脆弱なアフリカのコンピューターが乗っ取られ、「ボットネット」を介して世界中にサイバー攻撃が仕掛けられる可能性が現実味を帯びている

2010年3月31日(水)17時11分
フランツシュテファン・ゲイディー(イーストウェスト研究所研究員)

アフリカにはITの基礎知識を持つ人が少ない(ソマリアの首都モガディシオのインターネットカフェ) Ismail Taxta-Reuters

 ほんの数回のキータッチで世界の上位10の大国の経済をまるごと破壊できる――そんな強力な感染力を持つウイルスに乗っ取られたコンピューターがネットワーク上に出現することを想像してみてほしい。1億台のコンピューターが1つの集団として攻撃を仕掛ける「ボットネット」(外部から実行できるプログラムを感染させたコンピューターのネットワーク)がそれを可能にする。まさにサイバーセキュリティーの世界における大量破壊兵器(WMD)だ。

 だが本物のWMDとは違い、この脅威は地政学上の論争にも外交上の課題にもなっていない。なぜなら誰にも見えていないからだ。この脅威がアフリカから忍び寄っていることが。

 コートジボワールで08年に開催された会議で発表された統計によれば、サイバー犯罪は他のどの大陸よりもアフリカで急速に成長しているという。サイバーセキュリティーの専門家は、アフリカ大陸のパソコンのうち80%が既にウイルスや悪質なソフトウエアに感染していると推計している。

 数年前なら、この事実は世界経済にとって大した懸念材料ではなかったかもしれない(コンゴで続く内戦が私たちの日常生活に何の影響もないのと同じことだ)。だが近い将来アフリカにブロードバンドサービスが到来することで、事情は変わるはずだ。海底ケーブルのインフラ(基盤整備)が整えば、バーチャルな世界では、アフリカ・ニューヨーク間の距離はボストン・ニューヨーク間と何ら変わらなくなるだろう。

 アフリカでブロードバンドが普及すれば、ウイルスや悪質ソフトウェアはグローバルな問題に発展する。より多くのアフリカのユーザーが(より高速の)インターネットにアクセスできるようになるにつれて、より多くのデータがアフリカ内外に転送される。アフリカからあなたのパソコンにより多くのスパムメッセージが届くようになるのは、ほんの序章にすぎない。

主要国のインフラを破壊する威力

 本当の脅威はこうだ。中心となるサーバーを経由して、ほとんどのユーザーが気付くこともなくアフリカ大陸中のコンピューターが乗っ取られ、ネットワークにつながったほかのコンピューターに(スパムやウイルスの)伝達を指示する。「ボット」と呼ばれる攻撃用プログラムに感染したゾンビコンピューターは、スパムやウイルスの発信源となる犯罪者の意のままに動いて悪さをする。

「100万のコンピューター群を抱えるボットネットは、フォーチュン上位500社のサーバーを一気にダウンさせるだけのトラフィックを送り出すことができる」と、ジェフリー・カーは新著『サイバー戦争の内幕』で述べている。「コンピューターの数が1000万台になれば、欧米の主要国のネットワークインフラを麻痺させることも可能だ」

 1億近いコンピューターを抱えるアフリカ大陸は、壊滅的な攻撃をもくろむ連中にとっては格好の餌食だ。

国家間の協力体制がない

 ハッキングすべきコンピューターは世界中にあるのに、なぜアフリカが狙われるのか? 端的に言えば、アフリカ大陸のコンピューターが世界1脆弱だからだ。最近の世界銀行の調査によれば、アフリカの人口の約80%がIT(情報技術)の基礎知識すら持っていない。インターネットカフェは至るところにあるのに、プロバイダーは適正なウイルス対策を講じていない。その結果、アフリカはハッカーやボットネットの構築者の標的にされている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

G7、ロシアに圧力強化必要 中東衝突は交渉で解決を

ビジネス

ユーロ高大きく懸念せず、インフレ下振れリスク限定的

ワールド

米ミネソタ州議員銃撃、容疑者逮捕 標的リストに知事

ビジネス

再送(11日配信記事)豪カンタス、LCCのジェット
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 7
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中