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「タダ乗り」中国の無責任

既存の世界秩序で利益を得ながら国際社会の責任を負いたがらないこの国の本音

2010年3月12日(金)14時48分
ミンシン・ペイ(米クレアモント・マッケナ大学教授、中国専門家)

 「タダ乗り」の常習者に金を払わせるにはどうすればいいか。欧米諸国は今も中国の扱い方について頭を悩ませている。

 中国が大国として再び台頭を始めたここ10年、欧米諸国は中国が既存の国際秩序の中で建設的に行動することを願ってきた。アメリカやヨーロッパの高官は中国の高官をおだて、甘やかしてきた。

 不幸なことに欧米はほとんど見返りを得ていない。中国を政治的に民主化することはできなかった。インターネットの検閲に関するグーグルと中国政府の争いがいい例で、欧米からのソフトなアプローチには効果がない。おべっかを使えば中国側のエゴは収まるかもしれないが、それでは国際社会で本当に責任のある行動を取らせることはできない。

 考えてみてほしい。中国は昨年12月にコペンハーゲンで開催された国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)で二酸化炭素の排出量削減の義務化に反対し、温暖化防止を目指す国際合意を骨抜きにする一因をつくった。

途上国のふりをする中国

 徐々に世界が景気後退から抜け出そうとするなか、中国の為替政策は世界経済再建の障害になっている。人民元切り上げを求める欧米の度重なる警告にもかかわらず、中国政府は政策転換を拒否している。この自分さえよければいいというワガママ政策は、欧米のまだおぼつかない景気回復だけでなく、世界の自由貿易制度をも脅かしている。

 イランの核開発問題でも欧米の提唱する強硬な経済制裁を繰り返し拒絶している。中国にとってイランは重要なエネルギー供給国だ。中国はイランへの軍事行動が生む破壊的な影響や中東の核開発競争より、自国の経済的利益が心配らしい。

 なぜ中国は世界の平和と繁栄を維持するため、国際社会での負担を公平に分担しようとしないのか。いくら経済成長しても、国民1人当たりでみれば中国がいまだに貧しい途上国だからだと一般的には説明される。残念ながらこの見方は正しくない。国家のイメージアップのために450億謖以上のカネを使ってオリンピックを開催した中国が、貧困を理由にすることなどできない。

 中国政府が責任を負いたがらないのには根深い政治的な原因がある。中国政府は自国の利益がアメリカ主導の世界的な安全保障政策や欧米が支える自由貿易制度によって維持されていると理解しているが、エリート層はその秩序の根本にある価値観に共感しない。欧米が肩入れする民主主義と人権思想も、中国共産党は公然と拒絶している。

 中国のエリート層は世界の安全保障におけるアメリカのリーダーシップが地政学的な現実と理解しているが、正統性は認めていない。だから中国政府は「多極化する世界」の実現を、少なくとも言葉の上では推し進めようとしている。

多重人格者のような国

 中国の指導者たちは、国際的な公益に積極的に貢献する政治的な意義など感じていない。政府で出世するのは、ますます民族主義的になる国民に迎合する人たち。欧米の下僕と思われたい高官などいない。その結果、中国の発言と行動は、世界秩序の中で利益は享受するがそのコストは拒絶するという「多重人格者化」する。

 中国が世界秩序にタダ乗りしながら、国際社会から一目置かれる日々は終わろうとしている。

 幻滅は既に始まっている。過小評価される人民元と保護貿易主義的な姿勢に憤る多国籍企業は不快感を口にし始め、欧米諸国は中国からの輸出品に対して反ダンピング関税を課している。中国が通貨政策を変えないなら、さらなる報復措置を考えるだろう。人権問題に対する圧力が強くなる可能性もある。

 印象が悪くなったのは、温暖化防止への協力を拒否したからだ。中国政府はよく理解しなければならない。

[2010年2月10日号掲載]

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