最新記事

アフガニスタン

大間違いのタリバン買収作戦

国際社会がいくら大金を積んでも、彼らはイスラムの大義のために戦い続ける

2010年3月3日(水)15時07分
ロン・モロー(イスラマバード支局長)

 1月28日、アフガニスタン支援を話し合う国際会議がロンドンで開催された。70近い国の代表が集まったこの会議で、ハミド・カルザイ大統領はすべてのアフガニスタン国民、「特にアルカイダなどのテロ組織に属さない」勢力に「平和と和解」を訴えた。

 自分たちは戦況で優位に立っていると考えるイスラム原理主義組織タリバンが、なぜこの提案に応じると思うのか──カルザイはその理由には触れなかった。

 他の国の代表からは、もっと現実的な(と本人たちは思っている)解決策が提案された。例えばタリバン兵に金を払って組織から離脱させるという案。報道によれば、会議の参加国はこの作戦のために約5億ドルの拠出を約束したという。

「相手が友人なら、わざわざ和解する必要もない」と、ヒラリー・クリントン米国務長官は言った。確かにそのとおりだが、問題はそもそも相手が本当に和解を望んでいるかどうかだ。

 アフガニスタンでの取材経験が長い本誌のサミ・ユサフザイ記者は、金で買収するという発想を一笑に付した。タリバンの幹部や司令官が安楽な暮らしを望んでいるのなら、とうの昔に取引に応じていたはすだと、タリバンを最もよく知る専門家の1人であるユサフザイは指摘する。

 タリバンは絶体絶命のピンチに陥ったときも大義のために戦い続けた。そして彼らは今、南部、東部、西部の多くの地域で反攻に転じ、首都カブール周辺や北部の一部でも活動を強化している。本人たちは15年から20年かけて勢力を盛り返すつもりだったが、実際は8年でここまできた。神のご加護のおかげだとタリバン兵の多くは考えている。

組織の団結は揺るがない

 これまでにタリバンから離脱したのは、地位があまり高くない少数の指揮官や兵士だけだ。しかも彼らはその行動を後悔している。

 現在、彼らの多くは故郷の村から離れ、カブールでその日暮らしの生活を送っている。私はユサフザイに何人かを紹介してもらった。

 彼らはもう1度タリバンに戻りたいと心から願っているが、戻れば殺されることも分かっている。タリバンは裏切りを決して許さないからだ。

 もしカルザイや欧米諸国が大金を払い、タリバン兵を離脱させても、彼らには行くところがない。故郷に戻れば、かつての同志に粛清される危険性がある。かといって物価高のカブールにも住みたくない。それに地方出身の彼らは、カブール市民の嘲笑の的になる。

 男女共学の学校、ダンス、飲酒、音楽、映画、売春、蓄財──彼らにとって、カブールは憎むべき背徳の町だ。「タカはタカ同士で一緒に飛ぶ。他の鳥とはうまくやれない」と、タリバンの1人は言う。

 いずれにせよ、カルザイ政権はまったく信頼されていない。カルザイの約束を信じる人間は誰もおらず、現政権は異端と背教者から成る邪悪な存在と見なされている。

 さらにタリバンは、買収という考え方自体を侮辱と受け止める傾向がある。戦士の1人は憤慨した口調でユサフザイにこう言った。「私の思想と信仰を金で買うことはできない。バカにするな」

 最も「成功」に近い離脱の例は、サラム師という元司令官のケースだろう。2年前に離脱したサラムは、部下と武器の大半をそのまま維持することを認められ、地元ヘルマンド州ムサカラ地区の行政責任者に就任した。それでも本人は常に暗殺の危険にさらされ、ムサカラ地区の治安は不安定なままだ。

 大半のタリバン兵が安らぎを感じられる場所は、住民が自分たちとほぼ同じ世界観を持つ地方の村だけだ。都市と地方の間には社会や経済だけでなく、おそらく信仰面でも大きな断絶があり、しかもこの断絶は広がり続けている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

午前の日経平均は反落、FRB理事解任発表後の円高を

ビジネス

トランプ氏、クックFRB理事を異例の解任 住宅ロー

ビジネス

ファンダメンタルズ反映し安定推移重要、為替市場の動

ワールド

トランプ米政権、前政権の風力発電事業承認を取り消し
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 2
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」の正体...医師が回答した「人獣共通感染症」とは
  • 3
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密着させ...」 女性客が投稿した写真に批判殺到
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 6
    顔面が「異様な突起」に覆われたリス...「触手の生え…
  • 7
    アメリカの農地に「中国のソーラーパネルは要らない…
  • 8
    【写真特集】「世界最大の湖」カスピ海が縮んでいく…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 6
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 7
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 8
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 9
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 10
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中