最新記事

イタリア

ベルルスコーニは退場せよ

セックススキャンダルや差別発言を連発し政策には無関心。こんなお荷物首相はもう放置できない。

2009年12月16日(水)14時49分
クリストファー・ディッキー(パリ支局長)

 脅迫する、敵を欺く、自分に都合のいいように法律を変える、公私にわたり恥知らず。だからこそシルビオ・ベルルスコーニ首相はイタリアの英雄であり続ける。

 古代ローマの支配者は群衆をパンと見せ物で懐柔し、貴族の放蕩は腐敗を招いた。2009年の現代もそれは同じ。ここ数カ月、ベルルスコーニの王座を揺るがしているスキャンダルを見れば分かる。

 別居中の妻からは、未成年の少女にのぼせ上がっていると非難された。首相の相手をしたと主張する高級コールガールが暴露した録音テープは性的な会話が盛りだくさんで、彼女を欧州議会の議員にしてやるという言葉まであった。

 麻薬密売容疑で逮捕された実業家が、ベルルスコーニのパーティーに売春婦を斡旋した疑いも浮上。サルデーニャにあるベルルスコーニの別荘を撮影したパパラッチの写真には、少なくとも1人の著名人が破廉恥な姿で映っていた。

 そして先週、破滅的な判決のダブルパンチを食らった。90年代前半の判事買収事件をめぐる損害賠償訴訟で、ベルルスコーニ一族傘下の企業が賠償金7億5000万ユーロの支払いを命じられた。

 さらに憲法裁判所が、首相在職中は刑事訴追の対象外とする免責法を違憲と判断。今後、贈賄や組織犯罪との関係について、訴追や捜査を受ける可能性が出てきた。

クルーズ船の歌手から叩き上げ

 一連の疑惑に対し、ベルルスコーニは無罪を主張している。損害賠償訴訟は控訴する方針だ。憲法裁判所の決定についても酷評し、左派や共産主義者、外国企業による「魔女狩り」だと反論する。

 クルーズ船の歌手から一代でメディア帝国を築き、首相に上り詰めた男だが、さすがに政治人生の幕引きを考えるのではないか──と思うのは甘い。73歳のベルルスコーニは権力にしがみ付こうとしているし、実際に生き残れるかもしれない。

 最近の世論調査で首相の支持率は63%。野党である左派陣営は混迷を極め、右派はベルルスコーニの後継者争いに忙しい。憲法裁判所の判決を逆手に取って総選挙を強行すれば、与党が議席をさらに増やすことさえあり得る。

 ただし、権力の座にとどまることが「できる」からといって、とどまる「べき」という意味ではない。イタリアはけじめをつける潮時だ。ベルルスコーニに引導を渡すことは、犯罪に加担することでも首相を見下すことでもなく、常識なのだ。

 アメリカには「友人は友人に飲酒運転をさせない」という言葉がある。ベルルスコーニが日を追うごとに、権力と自分に酔っているのは明白だ。彼がイタリアのハンドルを握り続ければ国を破壊するだけでなく、ヨーロッパに大打撃を与え、北大西洋の同盟関係にも影響を及ぼしかねない。

 イタリアは危険な時期を迎えている。世界では、ウォール街もアフガニスタンも道路は危険な障害だらけ。火急の問題も抱えている。

 しかしスキャンダルで頭に血が昇ったベルルスコーニは、正面ではなく、バックミラーに映る敵のことしか見ていない。検察、マスコミ、共産主義者、ライバル、憤慨する女性たち。彼を倒そうと躍起になっている敵だ。

社会のあらゆる無責任を助長

 ベルルスコーニが自らを国の救世主と見なしていた時期もあり、それなりの説得力もあった。90年代初めに政界へ転身したのは、利己的な理由もあったかもしれない。自分か自分に近い人物が政権に就かなければ、自らのメディア帝国が汚職捜査の餌食になると恐れていた、ともよく言われた。

 しかしベルルスコーニは、当時のイタリア政界で貴重な役割を演じた。大々的な汚職摘発で政治家が次々に失脚するなか、中道右派に空いた空洞に、彼は巧みに入り込んだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米当局、コムキャストに罰金150万ドル 23万人超

ビジネス

赤沢経産相、ラピダス「国策として全力で取り組む」

ビジネス

アックマン氏のパーシング、来年早々の上場準備=WS

ビジネス

米企業設備投資向け新規与信、10月は前年比5%超増
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 10
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 3
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中