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米外交

イラン核問題、ネオコンの処方箋

2009年10月1日(木)17時52分
スティーブン・ウォルト(ハーバード大学ケネディ行政大学院教授=国際関係論)

学ぶべきはニクソンの対中政策

 コーエンが自らの戦略の実りのなさを承知している以上、彼の真意は、両国の間には和解はありえないと主張することなのだとしか思えない。米国内でオバマへの反発が高まる可能性をことさら指摘しているのも、問題解決のためというよりは、この20年間続けてきてうまくいかなかった政策にしがみつくよう、オバマを説き伏せるために思えてしまう。

 コーエンの非生産的な悲観主義の対極にあるのが、かつてブッシュ政権で中東政策に関わったフリント・レベレットと妻のヒラリー・マン・レベレットが、28日付のニューヨーク・タイムズ紙に寄稿した論文だ。

 この論文でも、軍事行動であれスパイ工作であれ経済制裁であれ、イランの核兵器保有を止められない点を指摘。イランの核武装を思いとどまらせる唯一の方法は、両国関係全般を変容させるための幅広く忍耐強い取り組みだと2人は主張している。

 この論文を読むと、リチャード・ニクソン元大統領が中国との国交樹立に向け、具体的な手順を踏んで敵対的な姿勢を緩めていったことが思い出される。毛沢東の支援を受けた北ベトナムが米兵を殺している間にも、だ。ニクソンは米中関係全体を作り変えることが、中国政府の問題行動をあげつらうより重要だと理解していた。そして、アメリカと事を構えることが中国の利益にならないような米中関係作りを目指したのだ。

 たとえレベレット案が効果を上げなかったとしても、それがもたらす結果はコーエンの戦略よりはましだろう。問題は、本物の核兵器など保有しないほうが得だということをイランに納得させることができるかもしれない戦略を、コーエンらネオコン勢力が全力を挙げて妨害しようとしていることだ。


Reprinted with permission from Stephen M. Walt's blog , 01/10/2009. © 2009 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

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