最新記事

景観保護

ありがた迷惑な「世界遺産」登録

2009年9月25日(金)14時24分
ウィリアム・アンダーヒル(ロンドン支局)

自然保護より開発が先

 世界遺産センターの台所事情は非常に厳しい。職員は100人未満、歳入は寄付を含めて2000万ドル程度。遺産の保護に苦労する貧しい国々を助けたくとも、これではまるで力が足りない。「センターには10倍の資金が必要だ」と世界遺産基金のモーガンは言う。

 ユネスコの働き掛けが感謝されるとは限らない。ユネスコは破壊の大きな脅威にさらされていると思われる遺産を「危機遺産」に指定、最悪の場合は登録を抹消する。

 72年に世界遺産条約が採択されて以来、登録を抹消されたケースはドレスデン以外にもう1つある。オマーンの「アラビアオリックスの保護区」だ。オマーン政府が石油採掘のために自然保護区を90%縮小したため、ユネスコは07年に世界遺産登録を取り消した。

 アメリカのイエローストーン国立公園は95年、周辺で金の採掘計画が持ち上がったことから危機遺産に指定された(03年に解除)。これをきっかけにアメリカはユネスコの干渉に対する反発を強めた。

 本当に保護が必要な遺産に手厚い援助を行うために、登録件数を絞るべきかもしれない。

 過去5年でユネスコは100件以上を世界遺産に認定した。登録件数の増加ペースが速過ぎるという批判もある。「数が増えれば、『世界遺産』のブランドイメージが弱まる」とNPO(非営利組織)世界文化遺産財団のジョナサン・フォイルは語る。

 だが一部の国にとって、世界遺産の登録件数は勲章の数のようなもの。イタリアとスペインは遺産最多国の座を懸け、長年しのぎを削っている。こうした争いを封じるため、ユネスコは1国につき推薦件数を年間2件に制限した。

 しかし、そもそも世界遺産というコンセプトそのものに弱点があるとも言える。地球上の偉大な遺産を未来に残したければ、世界遺産などに登録せず、そっとしておくのも1つの手かもしれない。

[2009年8月26日号掲載]

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

焦点:ジャクソンホールに臨むパウエル議長、インフレ

ワールド

台湾は内政問題、中国がトランプ氏の発言に反論

ワールド

香港民主活動家、豪政府の亡命承認を人権侵害認定と評

ビジネス

鴻海とソフトバンクG、米でデータセンター機器製造へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 2
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に入る国はどこ?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    AIはもう「限界」なのか?――巨額投資の8割が失敗する…
  • 5
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 6
    恐怖体験...飛行機内で隣の客から「ハラスメント」を…
  • 7
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 8
    40代は資格より自分のスキルを「リストラ」せよ――年…
  • 9
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 10
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 5
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 6
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 7
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 8
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 9
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 10
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中