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日本

鎖国と開国のはざまで

2009年8月7日(金)12時56分
レズリー・ダウナー(作家)

秩序と歓迎ムードの陰で

 ハリスは、なんとしても江戸に出向いて米大統領からの親書を将軍に手渡すつもりだった。ようやく、その許しが出た。

 江戸へ向かう長い行列は旗持ちと護衛の者が先導し、料理番1人も付き添った。駕籠が用意されたが、長い足を駕籠に押し込むのは耐えがたいほどつらく、人目につかないところでは馬に乗った。

 突然の出世を、ヒュースケンは楽しみ、驚いた。専属の靴持ちと傘持ち、3人の武士を引き連れた彼が通り過ぎるとき、群衆は土下座した。美しい娘がひざまずくのを見て、ヒュースケンは自分こそ彼女にひざまずきたいと願った。

 山、谷、水田、滝――日本の美しい景色に、ヒュースケンは酔いしれた。「偉大で堂々としたフジヤマ」には感激し、「世界でこれほど美しい景色はないだろう」と書いている。

 江戸では、無数の見物人が一行を出迎えた。「男や女や子供たちが何千人といたが、誰一人、反感や怒りはもちろん、無関心さをあらわにする者もいなかった。どの顔も、江戸が外国人に門戸を開いたことを喜んでいるようだった」

 だが日本の政情は、ヒュースケンが理解していたよりもずっと複雑だった。武士の多くは外国人の存在に腹を立てていた。

 1861年1月のある夜、ヒュースケンは、プロシア公使館から馬で帰る途中、薩摩藩の人間とみられる7人の武士に切り殺された。29歳だった。

 ヒュースケンの死は、一つの時代の終わりを告げた。日本が大変革の時期を迎えようとしているのは、外人の目にも明らかだった。

[2005年5月18日号掲載]

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