最新記事

ソマリア内戦

「失敗国家」に軍事介入するな

外圧は武装勢力間の結束を強めただけだった

2009年7月30日(木)16時49分
アンドルー・バスト

今やソマリアといえば「失敗国家」の代名詞。内戦と外国の介入失敗が20年近く続いた今でも、人道的悲劇の出口は見えない。

 最近、欧米の安全保障専門家は、首都モガディシオがイスラム武装勢力「シャバブ」に制圧される恐れがあると警告し始めた。米政府がアルカイダとのつながりを指摘する組織だ。過去2カ月間、シャバブと4300人規模のアフリカ連合(AU)平和維持軍の戦闘が続き、避難民は20万人を超えている。7月20日にはシャバブが南部バイドアの国連事務所を襲撃し、人道援助を含む国際機関の活動を中止させた。

 危機感を募らせた米政府は先日、劣勢の平和維持軍を支援するために500万ドル相当の軍需品を送った。現在ソマリア内外のさまざまなグループが外国からの援助拡大を求めている。

 しかし、それは余計なお世話である。むしろ世界各国はソマリアから軍を引き揚げるべきだ。外国の介入はたびたび事態を悪化させてきた。エチオピア軍は今年1月まで3年間、ソマリア武装勢力と戦ったが、イスラム強硬派を勢いづかせただけだった。AU平和維持軍の存在も、武装勢力が力を付け、結束しているかのような印象を与えている。外国軍と戦うため、シャバブは共通点のほとんどない別の武装勢力と手を組んだ。

勝たせれば分裂し自滅する

「外国の軍事介入は過激派を結束させている」と、米シンクタンク外交評議会のブロンウィン・ブルトンは言う。さらに、国際的なジハード(聖戦)の舞台にしようとパキスタンからソマリア入りするアルカイダの戦闘員も多い。おかげで長期的な政治的解決ははるかに難しくなっている。

 最も賢明な対応は、非情に思えるだろうが、首都を制圧しようとするシャバブをこのまま放置することかもしれない。その理由はいくつかある。まず、イスラム武装勢力は一枚岩には程遠く、外敵がいなければ分裂する可能性が高い。次に、ソマリアの氏族の多くは十分に武装しており、狂信的な武装勢力に簡単には負けないはずだ。

 そして、実際にシャバブが権力を掌握したとしても、統治という難題が待っている。「ソマリ人は厳格な宗教イデオロギーを嫌う」ため、タリバン式の支配には抵抗するだろうと、ブルトンは言う。外国軍が役に立つのはシャバブが自滅した後だ。ソマリアに戻るとしたら、目的は戦闘ではなく復興支援でなくてはならない。

[2009年8月 5日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米オープンAI、マイクロソフト向け収益分配率を8%

ビジネス

中国新築住宅価格、8月も前月比-0.3% 需要低迷

ビジネス

中国不動産投資、1─8月は前年比12.9%減

ビジネス

中国8月指標、鉱工業生産・小売売上高が減速 予想も
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 3
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人に共通する特徴とは?
  • 4
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 8
    【動画あり】火星に古代生命が存在していた!? NAS…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中